小さな親切の難しさ 2003. 6. 16 No. 11
<ちょっとした親切>
・ 通勤で通る東急蒲田駅は、多摩川線と池上線の終点で、ホームが5本あります。朝7時前に電車に乗ろうとした時、早朝でまだ使われていない降車専用ホームに白いつえを手にした人が見えたので、気になって立ち止まりました。その人は間違ったホームに入ってしまったことに気が付いて戻ろうとするのですが、どう戻っていいかわからなくて、行ったり戻ったりを何回か繰り返していました。
・ ふと助けてあげられるという気持ちが起こって、その人のところに行き「多摩川線にお乗りですか」と声をかけると「はい」とのことでした。「どうぞこちらです」と言って一歩近付くと、肩に手をかけてきました。その動作で、目がまったく見えない方だとわかりました。
・ 実は、そのような形で目の見えない方を誘導した経験がなかったのでちょっと不安でしたが、ご本人は慣れているような感じだったので、少しゆっくり歩いていくと肩に手をかけたまま問題なく付いてこられて、電車のドアの前まで来ました。
・ドアまでの距離をご案内すると、つえをうまく使って電車に乗られたあとお礼を述べられたので、「どういたしまして」と言って私は別のドアから乗りました。そうした方がお互い気兼ねしないような気がしたからです。その人は、2つ先の駅で無事降りていきました。ちょっと役に立てたことで、私も嬉しい気持ちでした。
<電車でうまく席を譲れなかった頃>
・ 今でこそ、特に躊躇せずにそのようなちょっとした親切を知らない人に対してできるようになりましたが、中学生の頃は、電車で当然ゆずるべき人に座席をゆずるのでさえ、うまくできませんでした。
・ どう声をかけたらいいのか、断られたらどうしようか、などと考えているうちに、タイミングを逸してしまうのです。それで後悔したりするのが心理的な負担で、いつしか本を読んでいて気付かないふりや、寝ているふりをして、知らん顔をするようになっていた時期がありました。
・ それが高校生のころのいつかから、席を譲れるようになりました。どんなきっかけがあったか、どんな気持ちの変化があったか、覚えていないのですが、たまたまあまり意識しないで譲ることができて、それをきっかけに譲れるようになったような気がします。
・それでも当然座ってくれるだろう人以外にでも声をかけられるようになって、断られたら自分が座りつづけられるようになったのは、ずっと後のことでした。
<ちょっとした親切のこつ>
・ やはり電車で座席をゆずるというのが、一番やりやすくて、練習になります。ドアの近くの席に座っていると、足下が不安で手すりにつかまって立つ方が現れることが結構あります。気が付いたらあまり考えずに「どうぞ」と言って立てば、大抵感謝されて座ってもらえます。断られてもめげずに、またやって下さい。
できなかったことができるようになる時 2003. 6. 23 No. 12
<泳げるようになった時>
・ 1年生の体育の水泳の授業を参観しました。とても良く泳げる人が多くて、驚きました。泳ぎが得意でない人はちょっとつらいかも知れませんが、本校にはとても立派なプールがあるので、ぜひ本校在学中にしっかり泳げるようになるといいと思います。
・ 私は、中学2年まで、息継ぎをして泳ぐことができませんでした。1学年91名の小さな中学校でしたが、中学2年の臨海学校が終わっても泳げないのは私と、もう一人の2人だけでした。
・ それでちょっと決心して、臨海学校から帰ってから、学校のプール開放や家の近所の区営のプールに夏休みの間中毎日、通いました。学校のプールでは、水泳部の友達が泳ぎを教えてくれて、1週間ぐらいで平泳ぎで息継ぎができるようになり、休みが終わる頃には、100メートルぐらい泳げるようになりました。
・中3の夏休みも毎日プールへ通い、9月の校内水泳大会では、50メートル平泳ぎで優勝しました。前の年まで泳げなかったことから思うと、びっくりするほどの進歩で、運動系についての自信がつきました。
<いろいろな成長のパターン>
・ 生まれたての赤ちゃんは、息をしたり、乳を飲んだり、泣いて不快感を示したり、眠ったりすることの他は、何もできません。成長していく過程で、次々にたくさんのことができるようになり、高校生になると、数えられないぐらいたくさんのことができます。
・ 多くの人ができるようになることの中では、泳ぎは早くできるようになる人と、なかなかできるようにならない人の差が、とても大きいことの一つだと思います。私の娘は、5歳の時に泳げるようになりました。
・ 私自身がなかなか泳げるようにならなくてつらい思いもしたので、娘には早く泳げるようになってくれればと思い、プールへ行って遊びながら少し泳ぎを教えてみました。ポイントは、自分がなかなかできなかった、顔に水がついても平気になることと、水の中で息を吐いてから空中で息を吸うということです。
・遊びながら教えてみると、すぐ浮けて、ちょっとだけ息ができるようになりました。本人もおもしろかったらしく、まだ体が小さかったこともあって、毎日お風呂の湯船で、浮いてラッコみたいに体をくるくるまわして遊ぶようになりました。そんなことを始めたら、2-3週のうちにちゃんと泳げるようになりました。
<あきらめずあせらず/できたときは一気に>
・ 運動系でも、勉強でも、技術的なことでも、できるようになるパターンは人それぞれです。得意不得意も、あります。なかなかできるようにならなくても、けっしてあきらめないで、よく考えて根気良く取り組んでいけば、いつかできるようになり、苦労した分、その後急激に成長することもあります。
・ 一旦できるようになったら、集中して一気に高いレベルまでできるようにする癖をつけると、いろいろなことの成長のスピードが早くなるような気がします。
長く記憶に残る試験勉強をしよう 2003. 6. 30 No. 13
<中間・期末の試験勉強の想い出2>
・ また試験の週がめぐってきました。7月の期末試験では、高3の時を想い出します。試験直前の週末に、自然保護協会の佐渡島での泊まりがけの観察旅行に参加しました。有名な随筆家なども含め、50名程度の様々な年齢層の人が参加していて、とても良い経験になりましたが、今考えても、よく試験直前に、夜行電車で行く1泊2日の観察旅行に参加したものでした。
・ 高校時代、あまり試験勉強をしなかったことを、校長だより6に書きました。それでも、使った時間に比べたら、かなり能率良く試験勉強をしたと思います。試験の本番には、結構強い方だったので、そこそこの点をとることもありました。
・ 開き直ってあまり試験勉強をしなかったわけですから、そもそも焦るということはありませんでした。睡眠を最低6時間はとっていましたから、眠いこともありませんでした。試験勉強をほとんどしない時でも、できればいい点を取りたい気持ちはありました。また、普段の授業中には、ちゃんと集中して先生の話を聞いていたことが多かったと思います。ノートはとりませんでしたが。
<後にも残る試験勉強を>
・ 試験勉強ですから、試験で良い点をとることが、中心的な目的です。でも、それだけでは、ちょっとむなしいですよね。試験勉強をすることが、受験勉強や将来の社会生活にも役立つということであれば、勉強にも、身がはいりやすいのではないかと思います。また、自分が好きなこと、知りたいと思っていることは、試験勉強でも自然に身がはいると思います。
・ 試験が終わったらすっかり忘れてしまうような勉強はやめにして、試験が終わっても、自分の力として残る勉強をしたいものです。そのためには、勉強の仕方も工夫がいります。後にも残るような勉強の仕方ということでは、2つの意味があると思います。
・ 一つは、覚えたことを試験後も忘れずに、記憶に残るような形で勉強するということです。このためには、試験勉強でどこをどのくらい勉強するかを良く考えて、特に重要だと考えたところ、特に興味深いと思ったところを、集中的に勉強することが有効です。試験に出そうなところを、とにかく全部勉強するのは、1回の試験の点数だけを考えるといいかもしれませんが、試験後忘れてしまうところも多くなりがちで、長い目で見ると効率が落ちると思います。
・ もう一つは、個々のことを覚えることばかりでなく、一般的に脳を鍛えるように勉強するということです。試験勉強は覚えることが中心でしょうが、覚えるということを通して、記憶力はもちろん、思い出す力とか、理解力とか、着想力とか、創造力も含め、脳の力全般を向上させることができます。そういうものだということを意識して勉強するだけでも、効果が上がるはずです。
勉強に使える時間は限られていますので、どうぞ自分に実力を向上させることに集中して使ってください。・
実力を発揮するための練習と工夫 2003. 7. 7 No. 14
<試験の本番に強くなろう>
・ 期末試験の最中に発行の校長だよりです。校長だよりの前半部分は、月曜日の朝8時10分から20分まで、校長室で続けている「朝の会」で、少しくだけた形でお話ししています。出席者は、一桁の人数のほぼ定着メンバーですので、試験中の7月7日は、試験を優先して、無理して朝の会に出席しなくてもいいと言ってあります。
・ それでも出席してくださる生徒がいるかもしれないので、当日の試験にも足しになることを話せれば、役に立てるかもしれないと思いました。それが、この「試験の本番に強くなろう」です。
・ 私自身は、なぜか、試験の本番にはとても強い方でした。中間や期末試験で、ほとんど試験勉強をしなくてもそこそこの点を取ることもありました。受験した入学試験や資格試験では、12戦11勝です。
<適度な緊張で実力以上を発揮する>
・ 緊張したり、あせったりすると、頭がうまく働かなくなって、実力を発揮できなくなることが良くあります。試験でもそういう経験をしたことがある人もいると思います。それでは、十分リラックスして試験に臨めれば、それでいいのでしょうか
・ 私の経験では、適度な緊張感や、適度なあせりは、うまく使えるようになると、試験本番で成果を出すのにプラスになります。試験以外でも、本番に向けて意識的に緊張感を高めていくこともしています。クラブでスポーツを一生懸命している人は、試合に緊張感をプラスに使っている人もいると思います。
・ 私も小学校の徒競走では、スタート時に心臓がすごくどきどきして、足がうまく動きませんでした。それが、中学校へ行って長距離走をするようになると、いつのまにかスタート前の緊張感が心地よくなって、意識的に緊張感を高めていけるようになりました。
・ 試験では最初のころから、自然と適度な緊張感で集中できるタイプでしたが、途中から自分でも意識して緊張感をいい形で高められるようになりました。試験以外でも、授業をする時とか、難しそうな会議に臨む時は、意識的に緊張感を高めて臨みます。
<自分のこれまでの実力発揮の経験をイメージする>
・ 試験本番で適度な緊張を使えるようになるための助言をひとつだけしてみます。自分の得意な分野で、これまで実力を発揮できたイメージを思い浮かべて見て下さい。その時、緊張感をうまく使えたということはないでしょうか。もしそれがあれば、そのイメージを今日の試験にちょっと移して、今日もうまく行きそうな感じを、軽くとらえてみて下さい。
・ そうして試験が始まったら、時間配分のこととか、できそうな問題にきちんと時間を使うこととか、できそうもない問題に時間を使い過ぎないこととか、思い出せそうなことを先にやるとかのような、時間を有効に活用する実際的なことに頭を使って、時間に追われてあせり過ぎなくてすむようにしてみて下さい。
予想しての準備と周囲の人との協力 2003. 7. 14 No. 15
<1学期の反省>
・ 新学年の1学期が始まってから、15週目になります。生徒の皆さんも、学年の始めに、この1年をどんなふうに過ごそうか、最初の1学期に何を目標にしようかと考えたことと思います。私も新米校長として、それなりの計画を立てました。
・ 計画を立てて実行したら、区切りの期間ごとに振り返って、反省し、自己評価をして、何が良かったか、何が不十分だったかを、よく考える癖をつけるといいと思います。そして、次の期間に、より充実して過ごせるよう、また、より多くの成果を得られるよう、計画を修正していくことが必要です。
・ 校長に着任して初めてのこの学期は、私の人生の中でも、大きな転換期の一つでした。本附属高校が平成18年度に中等教育学校(中高一貫の6年制学校)に改編されることに関連して与えられた課題は、これまで取り組んだことの無い、重いものでした。
<良かったこと>
・ 校長になることは、3月の始めに決まりました。4月からは、すぐに校長として責任のある仕事を進めなくてはならないと予想できましたので、校長に関する本を3冊買って予習しました。また、東京都教育委員会のホームページで都立高校関係の情報を読みあさりました。これらの予習や情報が大変役に立ちました。
・ 校長の職には、パソコンでの文書作成が重要だと予想し、また、パソコンやプリンタは使い慣れた機種でないと使いこなせるようになるまでに時間がかかるという経験がありましたので、着任後すぐパソコンやプリンタを駆使できるように、使い慣れたものとよく似たパソコン2台とプリンタ1台を自分で用意して校長室で使えるようにしました。校長用に高校でもともと用意されたパソコンやプリンタが一応使いこなせるようになったのは、2か月以上たってからのことでした。
・ 要するに、あらかじめ勉強し、予想を立て、早めにいろいろ準備をすることによって、新しい課題に対しても、なんとか対応することができました。これらの点はかなりうまくいったと考えています。
<不十分だったこと>
・ 校長に与えられた課題をこなすために、たくさん考え、できそうなことはどんどん実行できたのは、よかったのですが、反省点としては、自分で勝手に考えて先走ってしまうことも多く、周囲の人たちの意見を聞くことが、十分ではなかったように思います。
・ これまで研究中心の仕事をしてきたので、自分で考えることとか、失敗してもいいからいろいろやってみるということには慣れてても、意見を調整しながら慎重に検討することは、まだ不十分です。
・ それでも、先生方からいろいろ意見をいただいて修正してきました。後から考えると、それらの意見がとても重要だったことがわかります。もっと多くの意見をいただけるようになって、もっとそれらの意見をとりいれるようになりたいと思っています。
できるだけの準備をして,もてなせたこと 2003. 9. 8 No. 16
<校長の夏休み>
・ 生徒の皆さんは、どんな夏休みを過ごされましたか?私は、とても忙しい夏休みでしたが、楽しくて充実した夏休みでした。ここでは、高校のことからは離れて、研究者として参加した2つの国際シンポジウムのことを書きます。
・ 1つ目は、夏休みのはじめのアメリカ合衆国フィラデルフィアでのシンポジウムです。1学期の終業式の日を休ませていただいて、2泊3日で参加しました。私が27歳から29歳までの2年余りペンシルベニア大学で研究したときに指導を受けた先生が、そのまた先生の90歳の誕生日を記念して開いたシンポジウムです。
・ Briton Chance というその先生は、ノーベル賞の候補者に何度もなった方で、90歳の今も現役で研究を続けています。アメリカ合衆国では、定年退職は年齢差別ということでいけないようで、研究者なら、研究の意欲とアイデアと業績が続き、研究費を自分で獲得し続けることができれば、ずっと研究を続けられます。シンポジウムには200人以上の第一線の研究者(と退職者)が世界中から集まって、その先生と縁のある研究を発表したり、討論や情報交換をしました。
<日本で開催した光合成細菌の国際シンポジウム>
・ 2つ目の国際シンポジウムは、夏休みの最後の1週間、東京で開催した「第11回国際原核光合成生物シンポジウム」です。原核光合成生物というのは、広い意味での光合成細菌のことで、シアノバクテリア(らん藻)を含みます。外国からの170人を含む390人の研究者が参加しました。
・ こちらのシンポジウムは、運営をお世話する側でした。3年に一度、いろいろな国で順番に開催している国際会議で、11回目で始めて日本で開催されました。私は、前回のスペインバルセロナでの会議の時に、国際委員に任命され、国内の組織委員会で会計委員長を務めるとともに、当日の運営委員長を務めました。
・ 私が多忙な校長の職についたことで他の組織委員には大変な迷惑をかけてしまったのですが、なんとか任務を果たし、シンポジウムも大成功でした。
<国際シンポジウム成功の理由>
・ 国際シンポジウムは、日曜日から金曜日までの6日間にわたり開催しました。全体講演、シンポジウムセッション、ポスターセッションが、公式な研究に関する行事です。休憩時間、食事時間、パーティー等での、非公式な情報交換や討論が、公式な行事に劣らず重要です。また言葉の通じにくい不慣れな外国に来るので、ホテルや交通などに関するお世話も必要です。
・ 今回の国際シンポジウムでは、これらのすべてに渡り、多くの参加者からbestとかgreatestとか最上級の形容詞でお褒めいただき、満足していただけました。準備と運営に当たった組織委員とお手伝いいただいた方々がそれぞれ、すべての参加者が充実して快適な時をすごせるように、いろいろ工夫・配慮して、準備しお世話できた結果だと思っています。
さまざまな人とのコミュニケーションと共通の思い 2003. 9. 22 No.17
<記念祭(文化祭)での出会い・コミュニケーション>
・ 本校の記念祭(文化祭)を校長として初めて体験しました。多くの生徒さんが活き活きと自主的に参加している様子が、とてもよくわかり、大変うれしく思いました。生徒の皆さん自身も、企画する力、友人たちと調整する力、問題を解決する力、お客様をもてなす力等、いろいろな力をつけたことを実感していると思います。
・ この記念祭に校外からたくさんのお客様が来てくださったこともうれしいことでした。校長室も、新校舎の完成模型が直前に届いたこともあって、公開時間をもうけました。公開中はひっきりなしにお客様が、訪れてくださいました。
・ 在校生の保護者、中学生とその保護者、中学生のグループ、卒業生などいろいろな方が、模型を見てくださったり、質問をしてくださったり、お話をお聞かせくださったりしました。新しい出会いとコミュニケーションができました。
<中学生とその保護者とのコミュニケーション>
・ 記念祭にこれほど多くの、本校受験を考えている中学生とその保護者が来訪されることは知りませんでした。本校が、学業に加え行事や部活動を大事にしていることをご存じの方が多く、記念祭を見てさらに入学の意欲を増していただいたとお話いただいた方もいました。
・ 部活動のことも、いくつも質問されました。いろいろな運動部や吹奏楽部等、自分がやりたい部活動ができるかどうかが、高校選びの重要な要素になっているようでした。また、どんな部があってどんな活動をしているのかを、ホームページでよくご存じの方もおられました。部活動も含めて、十分な情報をホームページで公開することの重要性を再認識しました。
・ かなり昔の卒業生が何人か、中学生のお子さんを連れて来ていました。その卒業生たちも、自分たちが在学中に行った記念祭が、かなりその雰囲気を保ったまま続いていることを喜んでいるようでした。2世代にわたって入学させたいという思いがうれしく、そういう学校であり続けるように努力していきたいと思います。
<卒業生とのコミュニケーション>
・ 最近の卒業生も、何人も校長室に寄ってくださいました。まだ、大学生ですが、初対面の校長と高校への思いを軸に話がはずみました。その方々も、この高校にとても良い思い出をもって卒業し、この学校がいい学校であり続けてほしいと思っていることがわかりました。
・ どんな学校が良い学校なのかは、人によっていろいろな考えがあると思います。ただ、本附属高校については、在校生も、保護者も、卒業生も、教員も、校長の私も、本校がありたい良い学校についてかなり似たイメージを持っていると感じました。記念祭で、多くの人と話すことで、そう感じることができました。
変化する社会が求める大学改革 2003. 9. 29 No.18
<大学改革について>
・ どこの大学でも、現在、大学改革の真っ最中です。数年前までの50年間ほど、大学は、どこも同じような目標を持って、拡大の中で充実させることに努めてきました。大学入学希望者が、増え続け、それらの学生を受け入れることを、まず求められました。
・ ところが、大学入学年齢の人口が減少に転じ、大学進学率もすでにかなり高くなって、入学希望者も減少してきました。少子化が進み、今後ますます大学入学希望者の減少が予想されます。大学を選ばなければ、希望者全員入学に近いような状況になりつつあります。
・ 一方、社会が大学に求めるものが、大きく変わってきました。経済の高度成長時代が終わり、企業は国際的な激しい競争にさらされています。人材の面でも、学問的な成果の面でも、すぐに役立つ人や成果を、大学が供給することを求められています。ところが、これまでの大学は、すぐに役立つという点で、必ずしも十分ではありませんでした。
<都立大学の改革について>
・ 都立大学も、現在、大学改革の真っ最中です。1年半後の平成17年度から、都立科学技術大学、都立保健科学大学、都立短期大学と一緒になって、新しい大学になります。新しい大学は、「独立行政法人」という組織で経営され、東京都の直接的な経営ではなくなります。独立性が高まるとともに、これまで以上に厳しい評価を受け、それに基づく経営が求められます。
・ 自分自身が4年間学生として在学し、10年間別の大学や研究所を経験してから、教員として19年近く勤務した大学として、私はこれまでの都立大学がとても好きですし、在学生にとってすごくいい大学だと思っています。生まれ変わってまた大学に入学するとしても、都立大学みたいな大学に入学したいと思います。
・ しかし、新しい時代状況の中で、大胆な改革と飛躍が必要なのも確かです。東京都はこれまで、いい大学をつくり維持するために、かなりの費用を大学に投入して来ました。都の税収が不足する状況で、単にいい大学であるだけではなく、費用に比べて効果の高い大学であることが求められています。また財政危機の中で都が大学に費用をつぎ込むためには、在学生からの高い評価ばかりでなく、納税者にわかりやすい、すぐ目に見える高い成果が合わせて求められています。
<高校生にとっての大学改革>
・ 国立大学は、都立大学より1年早く、来年の4月から独立行政法人化されます。また、この10月から、いくつかの国立大学が統合されて新しい大学になります。私立大学でも、様々な大学改革が進行中です
・ 高校生の皆さんが、進学する大学を選ぶ際にも、それぞれの大学がこれまでどんな大学であったかとともに、現在どんな大学改革が進められているかも重要です。その際、もっぱら目新しさのみの「改革」と、大学の実力と教員の熱意に裏打ちされた「改革」が混ざっているので注意して下さい。
自分にあった大学を選ぼう 2003. 10. 6 No.19
<高校選びと大学選び>
・ 10月4日(土)の授業公開日の午後に、学校説明会を実施しました。体育館のメインアリーナで1時間ずつ2回行い、合計650人の中学3年生とその保護者が来てくださいました。200人と盛況だった午前中の授業公開も、ほとんどが受験生とその保護者でした。
・ 学校説明会では、冒頭の10分間程、校長から話をさせていただきました。話の中では、私が特に大事にしたいと思っている本校の特徴とともに、自分に(お子さまに)合った高校選びをしてほしいということを強調しました。
・ 本校の生徒が大学選びをするときも、ぜひよく調べて、実際に希望の大学に何度も行ってみて、自分にあった大学選びをしてほしいと思います。自分が選んでも大学の方も入学試験で選びますから、自由に選べる訳ではありませんが、大学もたくさんありますので、きっと自分にあう大学があると思います。
<都立大学生物学科での経験と実践>
・ 都立大学生物学科には、毎年30数人の新入生が入学します。生物学科新入生の最初の生物学の授業を10年ほど担当してきましたが、入学生の半分ぐらいは自分の希望と都立大学生物学科が良くあっていますが、残りの半分ぐらいの新入生は、別の大学、学部、学科が適しているという印象です。その方々は、それほど調べないで、単に、合格しそうな生物系の大学の内から、入試偏差値の高い大学を選んだように思えます。
・ それで、まず大学説明会で、どんな人は都立大学生物学科に合っていて、どんな人の期待には応えられないかをはっきり言うようになりました。せっかく都立大学に興味をもって説明会に来てくれた人に、「あなたは合っていない」と言うことは躊躇しなかったわけではありませんが、説明会参加者のアンケートで、「合わないことが分かってよかった」と書いていただくこともあって、ずっとそのようにしてきました。
・ その後、夏休みの2日間、講義と実験を受けていただく体験入学(オープンクラス)を始めました。これは、大学を良く知っていただき、適切な大学選びをしていただくのに大変効果的だと評価できましたので、今年から、6月から9月にわたって、8日間にわたって体験入学(生物学ゼミナール)を実施しています。3期に分けて、都立大学生物学科への適性のより高い人に絞って次の期のゼミナールを受けていただきました。最後に残った人たちはほとんどが、都立大学生物学科にぴったりという人たちばかりでした。その中の一部の人には、「ゼミナール入試」という新制度で、一般入試を受けずに入学いただくことにしています。
<人生を大きく左右する学校選び>
・だれにも合っているいい学校というのはないと思います。学校には個性がありますし、生徒、学生にはもっと個性があります。どうぞていねいに、自分にあった大学選びをしてください。
集中するか,なんでもやるか 2003.10.20 No. 20
<一つのことに集中して頑張るか、欲張るか>
・ 10月4日(土)の学校説明会でのことを、もう一回書きます。私は、最初のあいさつの中で、勉強も部活動も行事も頑張ろうとする人に、本校に来てほしいと話しました。若いうちは、何にでもとりくんでほしいと思うからです。
・ 説明会の最後の締めくくりは、生徒自治会の役員の人が、部活動や行事のことを紹介してくれました。その紹介の中で、逆に、部活動でも、行事でも、勉強でも、どれでもいいから頑張って、充実した高校生活を送ってほしいということを言っていました。
・ 約一時間の話しの最初と最後で、しかも、異なる文脈で話していますので、聞いている中学生やその保護者は、ほとんど気にならなかったと思います。でも、私は、あっ、逆のことを言っていると気がついて、少し考え込みました。
<一つのことに集中して取り組むとよい時>
・ いつでも、何かをしている瞬間は、他のことは気にせずに集中してひとつのことに取り組むのがいいのは明らかです。また、継続した時間のひとかたまりについてもそうです。45分の授業は、集中して一つの科目に取り組みますし、家で勉強するときも、計画に従って、一定時間同じことの勉強を続けます。
・ そして、ひとかたまりの勉強が終われば、次の勉強に移り、勉強が終われば、部活動や、趣味や、読書やリクリエーションに移ります。食事や、睡眠も、それぞれを集中して行うのがいいのはほとんど明らかです。
・ つまり、ある程度長い時間をとれば、いろいろな活動に次々に取り組んでいくのは、避けられない大切なことです。それでも、一定の長期間、集中して努力をすることも必要です。例えば試験前の一定期間は、とにかく試験準備に集中し、他のことはどうしても必要なことだけで済ませることで、効果があがります。
<高校時代をもっぱら一つのことに打ち込んでよい人>
・ 高校時代全体をとれば、一つのことに打ち込むより、たくさんのことに欲張って取り組むように、勧めたいと思っています。一つのことだけに集中して取り組んでも、それほど高いレベルに到達することは少ないですし、たくさんのことに取り組みつつ、1つか2つのことに、特に大きな力を注ぐことも出来るからです
・ 勉強と部活動も、これまでたくさんの高校生が両方頑張って、両方に成果をあげてきました。片方だけに集中することで、特に高い成果があがることは、それほどないと思います。ですから、附属高校生には、どんどん欲張ってたくさんのことに精一杯取り組んでほしいと思っています。
・ ただし、高校生でも、世界で最高のレベルや、日本で最高のレベルを目指している人は、ひとつのことに集中してとことん打ち込むのがいいと思います。それで他のことができなくても、また実際には最高レベルに到達しなくても、得ることが多いと考えるからです。