10月1日の中房温泉

9月29日−10月1日に中房温泉に行ってきました.合戦の湯の高温(86℃〜76℃)の10mにおよぶ高温の流れの中に成育している化学合成微生物群集が,硫化水素や酸素を消費して,水中のそれらの濃度を下げているかを測定してきました.その流れの中では,多いところは5cm以上の厚さで微生物が成育しています.多くは,1−2cmの厚さで,流れが特に速いところや,水深が10cm以上に深いところには,目に見えるようには微生物は成育していません.はっきり微生物の集合体が見えるのは,全体の面積の60%ぐらいです.今回は,そのように微生物が成育している状態と,ピンセットや小さいスコップで目に見える微生物の集合体をできるだけ除去した状態の2つの条件で,硫化水素や酸素濃度を測定してきました.

測定の結果,微生物が存在することで,硫化水素の消費は少なくとも30%,酸素の消費は少なくとも50%,増加していることがわかりました.つまり,そこに成育する微生物が硫化水素や酸素を消費することで,水中の硫化水素濃度や酸素濃度が大きく低下していることがわかりました.予想では,硫化水素や酸素の消費は,微生物の除去によって,もっと大きく低下するのではないかと考えていてのですが,それほどではありませんでした.その原因として,次の仮説を考えています.流水中の微生物の集合体は,98%程度以上は除去できたと考えていますが,底の砂の中にまだ多くの微生物がいて,それらが硫化水素や酸素を消費している可能性です.そのような仮説を考えた理由は,底の砂の表面にはきっと微生物がいるだろうと考えて,今回除去したのですが,その作業中に砂の表面ばかりでなく,砂の中にも明らかな微生物の集合体が確認できたからです.確認できたものは除去したのですが,砂の除去は切りがないので一部だけに留まりました.また,目に見えないような微生物も多く砂の中に存在する可能性があります.その可能性を確認するために,今後,プラスチックの樋を用意して,同じような深さや速度の水流中で,硫化水素濃度や酸素濃度が低下するかどうかを確認しようと考えています.

今回は,妻悦子にも手伝ってもらい,2泊3日で調査と測定をしてきました.3日目は雨が予想されたので,いつもの水流や温度調整に使うことにして,最初に2日で濃度測定をしました.10時半について,1時間ほどで川原に分光光度計,リチウムAC100V電源,酸素電極,酸化還元電極,pH電極をセットし,温泉の湧出口から10mの流れに沿って,1から9の測定地点を,約1m感覚で設定しました.各地点には,インスタグラムの写真にもあるように番号札をセットしました.この番号札のセットが思ったよりもずっとうまくいって,今後,半恒久的に水中にセットしておけそうな気がします.それにより,同じ場所での継続観察がやりやすくなります.1カ所3測定ずつの硫化水素濃度の比色定量による測定に2時間弱,その後,電極による酸素濃度,酸化還元電位,pHの3測定ずつに2時間強,かかりました.終わりは,17時近くでした.2日目は,8時半から作業をしましたが,流れの中の微生物の集合体と砂の表面を除去するのに二人で1時間半強かかり,この日も測定を開始したのは1日目と同じ12時ごろでした.

温泉が流れている川原でこれほどの濃度等の測定をしたのは,今回が初めてでしたが,ほぼ順調に進めることができました.お天気に恵まれたことも大きかったです.日よけ,小雨よけの屋根だけの2m四方のテントは,縦柱の地面に大きな石を置いて夜はそのままにしてきましたが,問題はありませんでした.テーブルやイスも,ブルーシートをかけて一晩,川原に置いておきました.分光光度計等は,背負子やリュックで20mぐらいの崖道を上り下りしました.野外ラボの様子は,インスタグラムの貼った調査地の流れ全体の写真の中に写っています.

合戦の湯の源泉(いつもの測定場所)の最高温度は75.7℃で,前回とほとんど同じでした.落葉は,まだ少しだけ入り込んでいる状態でした.川の流れのすぐ近くのクロロフレクサスの出る流れも,大雨で埋もれた後の修復が安定してきて,これから良くなると思います.今回も,川の流れとの間の2段階の小堤防を増強してきましたので,今後は数年に一度の大水の時以外は,埋もれないことを期待しています.古事記の湯の最高温度は,2週間前の前回よりやく5℃あがった75.6℃で,化学合成細菌のマットがだいぶ増えてきて,クロロフレクサスマットが減少してきました.今後,冬に向けてさらにその傾向が強まると思います.コンクリート壁の下の水平に近い流れの温度も上昇してきていて,シアノバクテリアのマットの他に,クロロフレクサスのマットもちらほら観察できるようになりました.今後,さらに温度が上昇したときにクロロフレクサスマットが増えやすいように,水流の調整とシアノバクテリアマットの一部除去を行ってきました.

9月17日の中房温泉

9月16日−17日に中房温泉に行ってきました.2週間後に予定している硫化水素濃度測定の練習です.合戦の湯の川原に,普通の分光光度計とAC100Vのリチウム電源を持ち込んで,メチレンブルーで発色後に565nmで測定しました.5カ所のサンプルを2本ずつ測定しましたが,少しばらつきが大きかったのでマニュアルを読み直したら,酸性の液を2滴入れた後,すみやかに速やかに発色試薬を混ぜる必要があると書いてありました.2本一度にやろうとして,特に2本目が,酸性の液を入れた後に発色試薬を混ぜるまでの時間が長くなってしまいました.その点を気をつければ,安定的な値が得られると期待できます.もう一つの注意は,発色試薬を混ぜた後に,5-6回よく振って混ぜるというのも,最初は忘れていました.この注意も必要です.2週間後のサンプルは,同じ3本の試料を,それぞれ発色まで同じ手順で処理した後,3本のガラスセルに入れ,ブランクと共に4本一度にセル室にセットして,615nm,665nm,715nmの吸光度を測定する予定です.測定地点は,源泉の86℃から10m下流の76℃の場所まで,9カ所の測定をする予定です.

2週間後に2泊3日で実行しようとしている野外実験での測定地点は,源泉の86℃から10m下流の76℃の場所まで,9カ所の測定をする予定です.仮説は,化学合成細菌のストリーマーやマットがよく発達していると10mで硫化水素濃度が1/3ぐらいに低下するのですが,ストリーマーやマットをできるだけ除去した後は,それほど低下しなくなるというものです.微生物が流水中の硫化水素濃度の低下に,どの程度寄与しているかがわかると思います.結果が楽しみです.妻が手伝ってくれることになっています.11月の温泉科学会の大会で,昨年のデータで硫化水素濃度の低下を発表しようとしていて,提出した要旨では微生物の寄与は可能性の指摘の段階ですが,今回の野外実験が成功すれば,仮説の検証結果を報告できます.もしそれがうまくいったら,来年は他の化学成分についても測定できればと考えています.

現地測定,複雑なサンプリング,現地実験に必要な機材も,だいぶ整えてきました.11kgのスペクトル測定可能な(315~1100 nm)可視分光光度計は,5重に緩衝材に包んでダンボール箱(防水処理済み)に入れ,背負子で運びます.モンベルの折りたたみ式テーブルは30kg耐荷重に耐えて安心です.そのほかに作業用に10kg耐荷重のテーブルと合わせて使います.5kgぐらいのリチウム電源は,分光光度計を10時間ぐらい連続使用できそうです.今後,顕微鏡や実体顕微鏡を持ち込んで,照明装置付きで使えます.そのほかのAC100V機器も使えます.バッテリーの充電は,車のDC12Vのシガーソケットからもできます.DC12Vから直接AC100Vに返還するアダプターも用意してあります.2m四方・高さ1.8mのテントで,強い直射日光や小雨でも作業ができるようにしています.

源泉の温度は,合戦の湯が85.9℃でした.一番奥の高温の場所は,92.3℃でした.どの場所も19日前とだいたい同じでした.川のすぐ近くも,63℃でクロロフレクサスにちょうどいい温度になっていました.古事記の湯は,前回の49.5℃から69.4℃に上昇していました.69.5℃はクロロフレクサスに最適の温度で,ここ10年来で一番クロロフレクサスマットが多く見られました.この欄の横のインスタグラムの写真でも確認できますが,半分がクロロフレクサスマット,半分がシアノバクテリアマットで,70℃以上で発達する光合成生物を含まない化学合成細菌マットは,まったく見られませんでした.ただし,70℃以下でもクロロフレクサスマットやシアノバクテリアマットの表面には,化学合成細菌フィルムが薄く生育しており,その一部は多くのイオウ下流を含んで白い硫黄芝として発達しています.今後温度が上がっていくと,状況がまた変わっていくと思います.古事記の湯の壁の下の水平の流れには,今回はクロロフレクサスマットはほとんど発達していませんでした.

8月29日の中房温泉

8月28日−29日に中房温泉に行ってきました.2日とも良いお天気の土日で,山へ登る人が多く訪れていました.ちょうど2週間前の8月12日の夜から15日の朝まで雨が降り続いて累積雨量が350mmにもなっていたので,その影響が大きかったです.昨年は,7月6日から8日の3日間に321mmの雨が降り,6月25日から7月15日までの21日間に833mmの雨が降りました.その間, 古事記の湯の最高温度は6月26日の75℃付近から7月18日の37℃に低下しました.今回は,それよりは影響が少なかったですが,8月7日の76.6℃から49.5℃に低下していました.成育している微生物もいつもと大きく変わっていました.

古事記の湯に比べると合戦の湯は,86.6℃(いつもの源泉測定場所.奥の最高温度は92.6℃)で,成育している微生物もほぼいつもどおりでした.ただし,温度の若干の上昇に加え湯量も増えていて,下流部の温度はいつも以上に高くて場所ごとの成育状況は変化していましたが,同じ温度のところを比較すると,ほぼいつもどどりでした.それでも,大雨の影響は合戦の湯でもあって,ストリーマーが流されたり,砂がかなり流入しているところがありました.今回は,下流部の80℃を超える流れでも,ストリーマーはブラックにならず,グレイでした.

合戦の湯の一段下の川のすぐ近くは,予想通り,また砂で完全に埋もれていました.ただ,川の水量はいつもの夏より少し低くなっているぐらいで,お盆のころの大雨の他は今年は雨量が少ない影響だと考えられました.それで,川と温泉水の流れの間に石と砂で小さな土手を築くことができたので,今回ぐらいの大雨なら次は埋まらないことを期待します.前にも書きましたが,川のすぐ近くの源泉は65℃前後なので,その状態が続けばクロロフレクサスのマットがオリーブグリーンにきれいに発達します.合戦の湯のその他の場所は,温度が高すぎて流れの中にはクロロフレクサスのマットの典型的なものは形成されず,流れの脇に流入流出口を狭くしたプールを作って66℃前後の場所を作り,そこにクロロフレクサスマットを形成させています.流れと流れないところの比較もできるので,川のすぐ近くのクロロフレクサスマットを安定的に研究に使える様にしたいと,作業を続けています.

今回,流れと温度の調整の他にやってきたことは,川原に分光光度計を持ち込んで吸収スペクトル測定をすることの予行演習です.あらたにモンベルで耐荷重30kgの組み立て式テーブルを購入してテストしましたが,11kgの分光光度計を乗せて問題なく作業がしやすいことがわかりました.4月に使って充電した後そのままにしたあったAC100Vが使えるリチウム電池バッテリーも,4ヵ月たっても充電率97%で,ほとんど放電していないこともわかりました.分光光度計の電源を入れて測定準備まではしましたが,時間の関係で今回はスペクトル測定はしませんでした.場所の整地と日よけテントを張る練習もしてきました.9月に大雨が降らなければ,9月の30日から10月の2にかけて妻悦子に手伝ってもらって,少し大規模な温泉水の硫化水素濃度の比色定量測定と,クロロフレクサスの吸収スペクトル測定をできればと考えています.

中房温泉の宿は,コロナ禍に加え,少しでもかき入れ時のお盆の時期のお客様が大雨の通行止でゼロになった影響で,難しい経営が続いています.ご都合がつけば,ぜひ中房温泉に宿泊することで応援していただければと思います.なお,大雨で信濃坂の近くで大規模な土砂崩れが起きましたが,応急措置がきちんとされていて,安全な通行には問題ありません.私たちの温泉微生物研究サイトを,宿の方の了解をとって見学いただくことが可能ですので,ご興味のある方はどうぞご連絡下さい.

8月7日の中房温泉

8月6日−7日に中房温泉に行ってきました.(これを書いているのは,いつもと違って大遅れの17日です.)5日に神戸でスーパーサイエンスハイスクールの全国生徒発表会があってその日は神戸に泊まったので,朝の便で羽田に帰り,13時ごろに羽田を出て,中房温泉に着いたのは17時だったので,その日は30分ぐらいだけ,作業をしました.次の日は,朝8時から16時ぐらいまで作業をしました.だいたい晴れていて,少し曇りでした.その朝の天気は,インスタグラム/nakabusaphile/に写真を載せてあります.

合戦の湯の,継続的に測定してきた源泉部の温度は,今回は86.1℃でした.前回より1.4℃低く,この1ヵ月間は雨が少なくて,表層近くの地下水の流入が減ったためだと考えています.前回93.7℃の最高温度を記録した測定できる最奥部の左側の岩の間の細い隙間に接している部分の温度は,91.8℃で1.9℃低かったですが,90℃は超えていました.源泉近くのクロロフレクサスプールの温度は,68℃前後で,左のプールはオレンジ色,右のプールはオリーブグリーン色でした.また,その2mぐらい右側の,別の細い流れの途中にも68℃のところがあり,そこには薄茶色のストリーマーが発達していました.源泉部を含めた4枚の微生物ストリーマー/マットの写真をインスタグラム/aggregans/に掲載してありますので,ご覧下さい.同じものが,このページの右側にも表示されるようになっています.黒い大きな傘をさして写真をとることで,水面への光や空の反射なしにマットやストリーマーの写真がきれいに撮れることがわかりました.偏光レンズを使ってもなかなかうまくいかなかったことが,簡単に解決してしましました.

すぐ下の中房川の流量は,今回は今までで一番少なかったようでした.しかし,この1ヵ月の間に短時間の豪雨で増水した時があったようで,川の流れ近くのクロロフレクサスが生える流れは,10cmぐらい砂に埋もれていました.その流れ(63.2℃)を掘り出すとともに,さらに1mほど川よりにも同じような湧出口(64.0℃)が今までの川の流れの中にあってそれからも水路をつくることができました.少しの増水では,その川にすごく近い流れも埋もれないように,土手を築いたので,それがとても大変でした.しかし,その後8月12日の夜から15日の朝まで,雨が降り続いて累積雨量が350mmにもなったので,川原は全部砂で埋もれてしまったのではないかと覚悟しています.また掘り出します.掘り出す度に,川側の土手を高くできているので,いつかはこの程度の雨では埋もれないようにしたいです.なぜかというと,中房温泉は多くの源泉がありませすが,ほとんど80℃近く以上で,湧き出し口からクロロフレクサスにちょうどいい温度の流れは,他にほとんどないからです.できるときは,ここにはきれいなオリーブグリーンのクロロフレクサスマットができます.

古事記の湯は最高温度が76.6℃で,1ヵ月前より2.5℃あがっていました.この温度変化も,この間の雨が少なくて地表付近の地下水が減っていると考えられるこれまでの観察と一致していました.今年の冬から砂防ダムの下の横の流れに,62℃〜70℃のクロロフレクサスや近縁種が成育しやすいように流れを調節したり,シアノバクテリアを除去したりしてきましたが,それがだいぶうまくいってきて,クロロフレクサスや近縁種がかなり成育してきました.それをしている理由は,昨年9月の河合繁さんたちとサンプリングしたときに,その近くの一カ所だけ,明らかに近赤外の吸収スペクトルにピーク波長のちがう光合成細菌の存在が認められたからです.そのピークが再現できれば,また新しい研究ができます.9月には,妻にも手伝ってもらって,現地にスペクトル測定ができる分光光度計を持ち込んで,スペクトル測定を行う計画と立てています.

7月8日の中房温泉

7月7日ー8日に中房温泉に行ってきました.予定では7月16日ー17日を考えていましたが,コロナワクチンの2回目の接種が13日なので,副反応を心配した家族から止められて1週間早めた週末にしました.ところが天気予報で週末に大雨が予想されたので,急遽前日の6日に決めて日本語学校の勤務日を振り替えて行ってきました.予報では両日曇だったのが,実際は8日は雨になってしまいました.それほど大雨ではありません.過去10日間の間に累積雨量が10mmを越えたのが3回あって,6月29日49mm,7月3日29mm,7月5日60mmで,毎年数回ある中程度の大雨の影響を受けていました.ちなみに昨年の7月は数年に一度の大規模な大雨の影響がありました.合戦の湯の川原のすぐ近くの温泉水(70℃の細い湧出)の流れは,また土砂に埋もれたので,掘り出してきました.今回ぐらいの川の増水なら,渇水期に石で川側に土手を気づいておけば埋もれないのではないかと思いました.

雨量と水温と化学合成細菌の微生物ストリーマーの色との関係で,観察が進んだところがあるので書いておきます.主には,6月28日ー29日の河合繁さんの観察です.その夜に短時間の大雨(4時間で34mm)があったのですが,それによって合戦の湯のメインの源泉の湧水量が上がって,そこでの温度はすでに最高に近い87℃でそれ以上は上がらなかったのですが,4mぐらい下流の流れが80℃から82℃に上がっていたとのことです.同時に,前日グレーの微生物ストリーマーだったものが一夜でブラックに変わっていたとのことで,写真も送ってくれましたが,確かに変わっていました.新たにブラックのストリーマーが成育した可能性はほとんど考えられないので,グレーがブラックに変化したと考えられます.ブラックはストリーマー内部での硫化水素濃度が高く,酸素濃度が極端に低いときにできるという仮説をもっているので,温度が上がったことによって,ストリーマー内の微生物による硫化水素の生成が増えたか,消費が減ったことが考えられます.

ところが,今回,同じ場所のストリーマーは水温が82.6℃と高いままなのに,色がグレーでした.しかも中心部はブラックで,その後発達した外側のストリーマーは温度が80℃を超えているのも関わらずグレーだったと考えられます.温度だけではない別の要因,例えば栄養塩濃度が関係している可能性を考え始めました.大雨の時の温泉への雨の影響は,2種類あるようです.一つは地表を流れてくる表面水,もう一つは地表付近の表層地下水です.表面水は前の降っている間とやんだすぐ後に流れていて,表層地下水はやんだ後も雨量によって数日から1ヵ月ぐらいまで増えていると考えられます.表面水は温泉の温度を下げ,表層地下水は合戦の湯では温度を上げ,古事記のようでは温度を下げると考えられます.栄養塩は,表面水で高く,表層地下水ではそれより低いのではないかと考えています.どちらも,硫化水素はほとんど含まれていない可能性があります.ブラックのストリーマーが発達するためには,温度が80度以上に加えて,栄養塩が一定以上あって低濃度の酸素消費活性が高まる必要があるのかもしれません.

温度については今回,もう一つ新しい観察ができました.以前から測定してきた合戦の湯の源泉部の最高温度は今回87.5℃で,今までのその場所の最高温度とほぼ同じでした.繰り返しになりますが,その温度は大雨の後で湧出量が増えたときの温度です.ずっと雨がないと湧出量が半分ぐらいに減って,温度は85℃ぐらいに下がります.4月に源泉部の上を覆っていた30cmぐらいの石を,取り除くことができました.それによって,今まで温度計が届いていなかった場所の温度を測定できるようになりました.これまでの測定地点より30cmぐらい奥です.驚いたことにその場所は,1cmずれると2-3℃は温度が異なっていました.使用している温度計は,先のとがったステンレスの2mmφぐらいなので細かく探ると,ごく狭い範囲だけが特に高い温度を示しました.その温度が93.7℃でした.この場所の標高は1430mなので,沸点は95℃です.沸点には届かなくても,それにとても近い温度でした.その温度の範囲が極限られていたことは,最高温度の湧出量はとても少ない可能性があります.もしかしたら高温の気体が少し地表まで上がってきていてそれが周りの水を沸点近くまで上げて少し出てきているのではないかと想像しました.

合戦の湯の川原のクロロフレクサスマットが見られる場所は,温度が上がったことと,地表水が流れたり砂が流れ込んだりして,壊滅状態でした.流量を調節したり,砂を除いたり,化学合成微生物マットを除いたりして,次回はクロロフレクサスマットはよく発達できるようにしてきました.砂や化学合成微生物マットを除くことで,その下からクロロフレクサスマットが現れたところもあちこちにありました.色は,いつもはオリーブグリーンの場所でも,オレンジがかったマットが多かったです.前回に引き続き,合戦の湯の川原でのシアノバクテリアマットがよく発達した場所を増やす調整もしてきました.

古事記の湯の最高温度は74.1℃で,前回より0.7℃下がっただけでした.マットの発達状況の見かけは大きく異なり,前回はマットが発達した温度に比べてその時の温度が低かったため,いかにも崩壊途中の元気のないマットが多かったのですが,今回は同じ程度の温度が3週間近く続いていたため,それぞれの温度であるべきマットはよい状態で発達していました.温度が低めでも流量は多く,クロロフレクサスのペールブラウンのマットの発達状況が良かったです.オリーブグリーンマットも,一定量,発達していました.昨年の観察で,新種のChloroflexiの可能性が高い細菌が含まれていた垂直に近い壁の下の水平方向の流れは温度が60度ぐらいと低くシアノマットでしたが,シアノマットを除去して流れを調整し64℃にしてきました.その温度域でマットが発達したら,吸収スペクトルを測定して確認します.

6月19日の中房温泉

6月18日ー19日に中房温泉に行ってきました.18日は曇,19日は雨の中の作業でした.前日の17日は,夕方すごい雷雨だったとのことで,昨日ではなくてよかってですねと言われました.中房の雨量計(有明荘のところ)は,17日の16時が9mm,18時が13mmでしたが,宿の人によればそれぞれ1時間の中の短時間ですごい勢いで降ったみたいです.18日の昼には川の水量はいつもと同じでしたが,古事記の湯のところの川原は30cmぐらいは水位が上昇した形跡があり,小石や砂が流されたり溜まったりしていました.合戦の湯では,砂がかなり流れ込んだり,一部雨で水位が少し上がった形跡がありました.微生物のストリーマーも流された形跡がありました.砂は,部分的に厚めに流れ込んだところは除いてきました.薄く砂がかぶっていたところはそのままですが,数日で砂の上に動いたり砂の上で増殖したりすると思います.

合戦の湯の源泉の最高温度は85.5℃で,その場所の典型的な温度です.6時頃から時間雨量2mmぐらいでずっと振っていた後の10半ぐらいに測りましたので,地表雨の影響で少し(1℃ぐらい)低めだった可能性があります.ここに何度も書いてきたように地表付近の地下水の影響があるときは,この場所は温度が高めになる傾向があります.クロロフレクサス用のプーたルや流れも,65℃から70℃の間をだいたい維持できていて,いい感じです.ただ川原のすぐ近くは,多分前日の雷雨で数cm埋もれていて,掘り出してきました.また雨で流されたり埋まったりしなければ,1週間ぐらいでクロロフレクサスの色が見えるぐらいに増えると思います.これまであまり興味がなかったシアノバクテリアのプールや流れも,数カ所整備できつつありますので,どなたかと一緒に研究できればと思います.自分中心は,化学合成群集とクロロフレクサス群集で手一杯ですが,シアノバクテリア群集の多様性と環境条件の関係も,やってみたいです.

古事記の湯の最高温度は,74.8℃で前回よりは2℃程度上がっていましたが,まだ通常の80℃には届いていません.マットの状況を見ると,前日の雷雨の影響で少し下がっているような気がしました.クロロフレクサスは,一番上の段に最近ではよく成育している筋がありました.クロロフレクサスがよく発達するためには,最高温度が70℃から75℃で安定しているといいのですが,ここ数年はそれよりも5℃以上高いことが多くて,化学合成細菌マットには最適ですが,クロロフレクサスの成育は最盛期の1/10以下です.砂防壁の下の横への流れは温度が低くてクロロフレクサスの仲間はあまり成育していませんでしたが,それなりに流れを調整してきましたので,1週間もすればクロロフレクサスの仲間が増えるのではないかと期待しています.そこは,昨年の調査で未知の新しいChloroflexiがいる可能性があるので,なんとかマットを発達させたいです.

今回は流れと温度と微生物の調整だけになってしまいましたが,次回以降は,吸収スペクトルや硫化水素濃度,酸素濃度,酸化還元電位の測定を,昨年に以上に広範に,またそれらの変動を測定していきたいと考えています.環境条件と微生物の発達状況をさらに詳細に把握した上で,それぞれの微生物群集のエネルギー代謝と物質循環の詳細を明らかにし,太古の微生物生態系の初期進化がどのような要因でどのように進んだかの一端を明らかにしていければと考えています.

5月23日の中房温泉

5月22日ー23日に中房温泉に行ってきました.いつもは,宿のお客様を優先で避けている土日です.天気予報で,金曜日の雨が予想されていたので,今回は金曜日を避けました.予想以上の大雨で,20日の15時から21日の15時までに157mmの大雨が降りました.雨量計は,有明荘のすぐ上流側の道路際です.連続雨量80mmで麓の宮城(みやしろ)からの道路が通行止になるので,21日(金)は一日中通行止だったそうです.川もかなり増水していて,合戦の湯の川原のすぐそばの温泉の流れは,完全に洪水で埋もれていました.水位が60ー70cmぐらい上がったようですが,到着した22日の15時には20cmぐらいの上昇,翌日の朝には10cmぐらいの上昇まで,下がっていました.25cmぐらいの砂や石で埋まってしまった温泉の流れは,1時間ぐらいかけて掘り出せました.毎年,2−4回は掘り出しているので,どこを掘ればいいかがわかっています.温度は70度ぐらいなので,掘り出して1ヵ月もたてば,化学合成ストリーマー,クロロフレクサスマット,シアノバクテリアマットができます.また大雨が降れば,流されたり埋もれたりします.

合戦の湯は,大雨でストリーマーはかなり流されたようでしたが,水路は無事でした.温度は,昨年わかったように,大雨の後に上がります.今回は,4月の時に比べて2.8℃高い88.2℃でした.上のクロロフレクサスプールは,左が60℃,右が71℃で,左はシアノバクテリアも大分混ざっていて,右はクロロフレクサスが半分弱を薄く覆っている程度でした.左を前日に68℃に調整しておいたら,翌日はシアノバクテリアの色がほとんどなくなっていました. 多分下に潜り込むか,クロロフレクサスが上に出てくるのだと思います.サイドバーのインスタグラムに翌日の写真を載せました.下のプールは68℃で,昨年の測定ではそこでは硫化水素はもうないので,オレンジ色のクロロフレクサスがよく成育していました.上の左の流れはクロロフレクサスには温度が高すぎでまったくいなかったので,温度を68℃にしてきました.

古事記の湯の温度は逆に,4月より7.2℃下がって73.0℃でした.急激な温度低下で,化学合成群集のペールタンマットは少なくなり,薄茶色のクロロフレクサスも混ざったマットが大きく拡がっていました.典型的なクロロフレクサスマットは,いつもと同じぐらいの面積でしたが,色は薄茶まざりものが多く,オリーブグリーンのものは最上部に少し見られるだけでした.いつもはシアノの下にある赤いロゼイフレクサスマットも一部露出していました.その両者が写った写真もサイドバーのインスタグラムに掲載しました.昨年の経験で,古事記の湯は大雨の後の1ヵ月間ぐらいは,測定している温度とマットが形成した温度が異なる可能性が高いので,本調査や本実験には使わない方がいいと思います.1ヵ月たてば,大丈夫です.

前回,下流部の水路を変えた合戦の湯の中湧出口からの温泉流は,順調に流れていました.下流の途中に2カ所40cmぐらいの径のプールを2カ所作って,シアノバクテリアの異なる温度のマットの研究が将来できるようにしました.その流れの上流部に7年前ぐらいに私が作ったシアノバクテリアプールを使って,すでにいくつもの研究論文が発表されています.私は,シアノバクテリアマットにはこれまでそれほど興味はなかったので,それらの研究には参加しておらず,共著にもなっていません.その理由は,シアノバクテリアマットの研究はイエローストーンで山ほどやられていて,似たようなことを中房でもやりましたという以上のことを考えつかなかったからです.ただし,より高温側の化学合成マットやクロロフレクサスマットのことが詳しくわかってきたので,中房のシアノバクテリアマットの研究も,イエローストーンでできなかったことができるような状況にやっとなってきたと考えています.ぜひ,共同研究をして下さる方がいらっしゃるといいと思います.

クロロフレクサスマットの多様性の研究も将来進めたいと考えていて,2カ所の新しい環境を準備中です.一つは,合戦の湯の最上部付近に,浅くて高温の湯がほんの少しずつ入り込んでくる場所で66℃前後のプールを作りつつあります.そこでは他の場所とは逆に,落葉もそのまま放置しようとしています.もう一カ所は,古事記の湯の砂防壁の下の水平の流れです.ここは,温度が安定しないのでこれまで研究に使ってこなかったのですが,いつもどこかにクロロフレクサスマットが見られます.冬期には,一面クロロフレクサスマットで覆われることもあります.ここも硫化水素がもうほとんどなくなっているので,硫化水素が濃いところとは違う生態系です.その場所も少しでも安定的に63℃から70℃の場所ができるように,こまめに水流調整と温度安定を邪魔しているマットの除去をしています.

4月24日の中房温泉

4月23日ー24日に中房温泉に行ってきました.23日の正午が,麓からの道路の冬季通行止が解除される時間で,その時間のすぐ後に車で登っていきました.正午よりかなり前の時間に通行止が解除になっていた感じでした.今年は,中房温泉の宿の通常営業も通行止解除の当日からで,準備作業と並行しての営業開始でした.例年は,連休に合わせた営業開始なので,コロナでお客様が減っているので少しでもお客様に来ていただきたいとのことではないかと思いました.それで私も,それに合わせていくことにしました.23日,24日とも晴天で気持ちよい早春の季節でした.麓から中間付近までは,コブシやヤマザクラが咲いていて,中房温泉付近はごく一部の木々の新緑がほんの少しだけ始まったところでした.雪は例年になく少なく,途中の道路からは数カ所雪が見えるだけでした.中房温泉の付近では,白滝の湯へ行く途中に少しだけ雪が残っていました.

3月以来の周囲の雪解けの温泉への影響が少し考えられましたが,古事記の湯(Kojiki-no-Yu, SiteA)の最高温度は80.4℃で,前回3月より0.6℃低めでした.合戦の湯(Kassen-no-Yu,SiteB)の最高温度は,85.4℃で前回より0.4℃高い温度でした.前回からは若干の変化でしたが,昨年の温度変化の仮説「表層水の影響があるときは古事記の湯では温度が下がり,合戦の湯では温度が上がる」に合致した変化でした.化学合成微生物群集は,今回もよく発達していました.クロロフレクサスのマットは相変わらず数年前までのような発達は見られませんが,部分的にはよく発達していました.これから日照時間が増えると,クロロフレクサスのマットの発達も良くなると考えられます.

今回は,クロロフレクサスマットからのDNA抽出用のサンプリングを行いました.昨年9月の大規模サンプリング(62℃から86℃の間の16種類の群集のサンプリング)で大変興味深い多くの結果が得られていて,予備的なデータ解析が終了し,数編の論文にするためのデータ解析を進めているのですが,①点だけ大きな問題点が残っています.それは,16S-rRNA遺伝子のアンプリコン解析で,Chloroflexus aggregansの遺伝子が従来のCraig, 大滝さん,河合さんの解析結果に比べ1/10から100/1の相対量しか検出されていないということがあります.吸収スペクトル解析を同時に行っていますので,C. aggregansの存在量が従来とほとんど同じだということは,確信を持っています.

問題の原因は,DNA抽出か,PCR増幅か,シークエンスか,データ解析かのいずれかのはずで,昨年秋以来,いろいろな可能性を検討してきたのですが,まだ結論に至っていません.今回は,DNA抽出へ向けての試料の保存状態の影響を調べるためのサンプリングをしました.具体的には,すぐに氷結させたサンプル,1日後に氷結させたサンプル,2日後に氷結させたサンプルの比較を計画しています.過去の解析は,現地から室温で持ち帰っていたのに,昨年は現地で凍結させていたからです.同時にまったく同じサンプルで吸収スペクトル解析を行うため,高濃度にサスペンドさせたマットサンプルを,8本に分け,3種類の凍結用と,1種類の吸収スペクトル測定用,それぞれデュアルに用意しました.

吸収スペクトル測定は,初めて現場にスペクトルが測定できる分光光度計とAC100V出力があるリチウムイオンバッテリーを持ち込んで行いました.重量はそれぞれ11kgと4kmあるので,背負子を用意して川原に降ろして使いました.スペクトル測定は,問題なく進めることができました.このシステムが使えることで,今後,現場で吸収スペクトルを確認しながらサンプリングすることができるようになります.また,硫化水素濃度の比色定量も現場で行いながら,特定の硫化水素濃度を狙ってサンプリングをすることもできるようになります.

いつもどおりの水路と水流の調整をしたのですが,今回は大きな水路変更を行ってきました.合戦の湯(Kassen-no-Yu,SiteB)には,3つの温泉湧出口があり,左から85℃前後の大量湧出口(左湧出口),その右5mぐらいの75℃前後の少量湧出口(中湧出口),そのまた5mぐらい右の下の68℃前後の川原の少量湧出口(右下湧出口)です.このうち,中湧出口の温泉水は8mぐらい流れたところで左湧出口に合流させていたのですが,その下にクロロフレクサスが良く生育するプールができています.昨年までこのプールのサンプルを使って研究をすることはなかったのですが,昨年調べて見ると硫化水素はもうほとんど無いのに,クロロフレクサスがよく発達していることがわかりました.今後,途中の微生物の生育と水中の溶存化合物の関係を詳しく調べたいので,途中で別の温泉水の流れが合流することはデータを複雑にする要因になります.そのため,中湧出口からの温泉流を,下のクロロフレクサスプールより下部で合流させるように流路を改修しました.うまくいったと思います.これにより,中湧出口からの流れでよく発達しているシアノバクテリアのマットについても,今まで以上に広い温度領域で調べることが可能になります.

もう一つ新しく始めたことは,現地へ行くたびに微生物の生育状況の写真を撮ってインスタグラムに掲載することです.そのインスタグラムをこのページのサイドバーにも表示するように設定しました.言葉ばかりでなく,微生物の生育状況の実際の記録になります.温泉中の微生物が,どう変化していくか,または変化せずに安定しているか,お楽しみください.化学合成微生物群集や,酸素非発生型の光合成微生物群集や,シアノバクテリアを中心とした微生物群集が,いつでも近くで見られる場所は,とても珍しいです.温度が下がるに従って,地球の生態系の初期進化の順番になっていると考えています.一般の方の立入禁止の場所ですが,ご連絡いただければご一緒できます.研究者の方でしたら,宿の方の許可で立入できます.

3月14日の中房温泉

3月13日ー14日に中房温泉に行ってきました.4年前の12月から,冬は13回目です.今回は,昨年の3月に続いてひとりで行ってきました.中房温泉に2名の方がおられる他は,途中は2カ所の水力発電のタービンが動いているのが人工を感じる動きで,ひとけそのものはまったくありませんでした.サルは何回か見ました.シジュウカラがさえずり始め,イワヒバリを行きも帰りも近くで見ることができました.初日は,有明神社の駐車場から途中までかなりの雨で,やがて激しい雪に変わり,湿った雪が10cmー20cm積もる中を歩きました.軽いラッセルで疲れはしましたが,すべることはなくて,ストックは使わず,ずっと傘を差しながら登りました.帰りの日は,10時半ごろまでの作業中は最初は雪でしたが,途中から日が差し始め,下りはずっとサングラスをかけていました.帰り道は,上半分は湿った雪が凍って踏むと適度に沈んで滑るように下り,下半分はアスファルトで調子よく歩け,休憩とお昼の時間を入れて3時間45分で下りました.新記録です.

古事記の湯(Kojiki-no-Yu, SiteA)の最高温度は,81.0℃で前回とまったく同じでした.合戦の湯(Kassen-no-Yu,SiteB)の最高温度は,85.0℃で前回より0.1℃低いだけでした.温泉の温度の変化をきちんと記録し始めたのは昨年の6月からですが,雨が多いとき以外は,ほとんど安定しています.中房温泉によく通うようになった20年前から比べると,古事記の湯(SiteA)は7-8℃高くなっています.それに伴い,70℃以上の化学合成微生物群集の発達はとてもよくなりましたが,62℃〜70℃のクロロフレクサスのマットは,とても貧弱になってしまいました.今回は,脚立がないと届かないような上部に,クロロフレクサスの良いマットができていました.合戦の湯(Kassen-no-Yu,SiteB)も3ー4℃高くなっています.合戦の湯(Kassen-no-Yu)という名前は,今回初めて使います.百瀬社長に教えていただきました.湧湯している川原の場所が,合戦沢が中房川に合流しているすぐ下にあるからだと思います.濁らずに,Kassenと言われました.

今回は,晩秋ー初冬以外では,温泉流中に落ち込んだ落ち葉の量が多かったような気がします.1月からの2ヶ月間に,強風が吹いたのかもしれません.いつものように,できるだけ取り除いてきました.場所によっては,落ち葉のために流れが悪くなります.イネ科の枯れ葉や枯れ茎も多かったです.これも,強風と関係があるのかもしれません.基本的に70℃以上の場所でも,流れが悪くなると温度が下がってクロロフレクサスやシアノバクテリアが成育してきます.落ち葉を除いて流れ良くするとともに,温度が下がって成育したクロロフレクサスやシアノバクテリアは取り除きます.クロロフレクサスやシアノバクテリアは,本来の安定した温度のところで成育するように水路や水流を調整します.いずれも,流れの速い場所と,プールになってほとんど流れない場所の違い場所を用意して,比較ができるようにしています.

前回目立った,85℃の高温域での透明感のあるホワイトストリーマーが,今回もよく発達していました.表面から5cmぐらいの範囲に透明感のあるホワイトストリーマーが多く,その下にブラックストリーマーが発達していますが,一部は同じ深さに混在しています.中間の色はほとんどなくて,透明感のあるホワイトストリーマーかブラックストリーマーかのいずれかです.夏は,透明感のあるホワイトストリーマーは表面付近に少し見られるだけでした.今後,春・夏と観察を続け,来冬も同じような現象が見られたら,研究対象にしてみてもいいかもしれません.ブラックストリーマーについては,鉄を分析した後に論文を書こうとしているので(Research Diary at ELSI, Tokyo Tech の2月26日のところに論文計画の概要が書いてあります),その次の研究に繋がるかもしれません.河合繁さんが,採取したストリーマーや培養した菌液で,条件によって黒くなったり白くなったりの観察もしているので,それらとの関係の研究に発展するかもしれません.

今回は,X大学のYさんが85℃域の単体イオウ不均化菌の集積培養を試して下さるとのことで,サンプリングをして穂高郵便局から速達で送りました.ブラックストリーマーは,硫化水素を低濃度酸素で酸化するAquificaeと単体イオウを不均化する(硫酸イオンと硫化水素に同じ物質から酸化還元する)ThermodisulfobacteriaのCaldimicrobiumの2種の化学合成細菌から群集の大部分が構成されているようなので,結果が楽しみです.そのような化学合成微生物群集は,光合成が誕生する前の太古の微生物群集の一つのモデルになるかもしれないと考えています.

【今後の中房調査の予定日】 金曜ー土曜で書きますが,木曜ー金曜または土曜ー日曜に変更も可能です.同行をご検討いただけるかたは,ご連絡下さい.中房温泉の微生物に関心を持っていただける方や,共同研究をご検討いただける方は,大歓迎です.燕岳登山を兼ねる場合もあります.
4月23日ー24日,5月21日ー22日,6月18日ー19日,7月16日ー17日,8月20日ー21日,9月24日ー25日,10月15日ー16日,11月19日ー20日,12月17日ー18日.

1月24日の中房温泉

1月23日ー24日に中房温泉に行ってきました.初日は,今まで冬に歩いて行った中で,一番高い気温でした.1月の厳冬期のはずなのに気温が高めで中房温泉周辺の積雪量も一番少なかったです.宿の人によると,前日からの雨でどんどん雪が溶けているとのことでした.有明神社の登山者用駐車場を8時40分に歩き始めた時は曇りで気温は2度ぐらいで,宮城の通行止めのゲートまでは道にはほとんど雪がなかったのですが,ゲートからはずっと雪道でした.1時間ぐらい歩くうちに,少し雪がぱらつくようになり道の雪も0℃以下でした.新雪が数センチ積もって歩きやすかったです.ところがさらに1時間ぐらい進むと,雪が0℃以上で溶けた水が少し混ざってきて重たく歩きにくくなってきました.やがて雪が霧雨のような雨になりレインウエアやザックが濡れるようになりました.宿に着く頃にはさらに温度が上がり雨も霧雨から小雨に変わって,雪解けが進んでいました.夜寝ているときには,何度か屋根から多量の雪が落ちる大きな音で地面の震動を感じて目が覚め,地震や噴火ではないかとびっくりしました

24日の朝には雪に変わっていて,朝の調査地点での作業はやりやすかったです.10時に下山を始めた頃には,降っているのは雪でしたが足下の雪道の雪は完全には凍っておらず,降る雪もだんだんと少し湿って激しく降るようになってきました.そのような少し湿った雪は木々の枯れ枝や針葉樹の葉につきやすく,みるみるうちに周りの森が雪化粧で美しくなって,同行の妻はさかんに写真をとっていました.下の発電所の辺りまでは雪だったのが,やがてみぞれ,小雨と変わりましたが,有明神社のところまでそれほどは濡れずに下れました.温度が高めの他にも,2日間続けてほとんど雨か雪が降っていたことも冬では初めての経験でした.

温泉水の温度は,ストリームサイト(SiteB)の最高温度が85.1℃で前回とほとんど同じでした.ウォールサイト(SiteA)の最高温度は81.0℃でいつもの1月のようにこの場所としては高かったです.温泉水量が少し減り気味なことの影響ではないかと考えています.冬のこのような温泉水温だと,砂防壁を流れ落ちた後の川までの横のながれも80%以上が70℃以上で,クロロフレクサスやシアノバクテリアの成育は悪かったです.春から秋のシーズンだと逆に横への流れは80%以上がクロロフレクサスやシアノバクテリアです.

微生物の成育で今回特徴的だったのは,ストリームサイト(SiteB)の源泉の85℃の水中で,ブラックストリーマーと並んでトランスパラントのストリーマーが多量に存在したことです.その温度でも表面の1-2cmの水中ではトランスパラントのストリーマーがいつも少し見られるのですが,今回は5cmから10cmの深さのところにも多量に存在しました.このような85℃域での多量のトランスパラントストリーマーは,初めてみました.水量が少し減っていることの影響なのか,11月から12月にかけて多量の落ち葉が水中にも落ちていたことの遅れた影響なのかと考えました.いずれにしても,直接的には水中の栄養塩濃度かそのバランスの影響が考えられます.

もう一つ今回観察できたことは,ストリームサイト(SiteB)のいつもは62℃から70℃のクロロフレクサス成育域の温度の場所が,落葉や流量低下や気温低下の影響で60℃以下になっているところが多く,すっかりシアノバクテリアの色に変わっていました.初日の22日の夕方4時頃に落葉を取り除いたり流量を増やして温度が高くなるようにしておいたら,翌23日の朝8時頃に見たら温度は66℃から70℃になっていました.微生物マットの色は主にシアノバクテリアの色から,ほとんどクロロフレクサスに少しシアノバクテリアが混ざった色になっていました.私の推測は,シアノバクテリアが急に死滅することはないことは以前学生が実験していましたし,流れ下る場所でもありませんので,マットの下の方へ潜り込んだのではないかと考えています.地面に近い方が少しでも温度が低いと考えられるからです.

ストリームサイト(SiteB)の70℃から85℃の化学合成細菌ストリーマーの発達は,今回も最高の状態に近かったです.少し残っていた落葉を取り除き,発達しすぎて流れが悪くなっているところのストリーマーやマットを取り除き,砂が溜まって浅くなっているところの砂を取り除いてきました.また,故障した温度連続測定器の1台を交換し,雪に埋もれていて電池も少なくなっていた照度連続測定器も電池を入れ換えてクロロフレクサスマットのプールの近くにセットし直してきました.次回は,3月の10日ころに行ければと考えています.

12月20日の中房温泉

12月19日ー20日に中房温泉に行ってきました.最後の山道が雪で冬期閉鎖中なので,有明神社のところの登山者用駐車場に車を止めて,片道13km(標高差740m)を徒歩で往復してきました.4年前に初めて西原亜理沙さんと歩いてから11回目で,今回は妻悦子と一緒でした.駐車場から雪が降っていてずっと雪道だったのは,今回が初めてです.周囲の木々や森や山の雪景色が,とてもきれいでした.常緑樹,細い枝の落葉樹,太い幹の落葉樹それぞれに雪の付き方が違って,雲の厚さによって光の当たり方も微妙に変化して,美しかったです.ヤマガラ,シジュウカラなどの鳥やサルも見ました.温泉のまわりは地熱で雪が溶けていて,寒いですが調査研究には雪の影響はありません.

調査地点のストリームサイト(SiteB)の最高温度は,85.3℃で1ヵ月前より少しだけ(1.3℃)低かったです.ここのところ降水量が少ない上に雪なので,表面付近の地下水が減るとストリームサイトの温度が下がり気味という仮説と,一致していました.ただし,温度が少し低いとはいってもほとんど同じなので,微生物のストリーマーやマットの成育状況は,いつもとほとんど同じでした.11月の20日に落ち葉の多くを取り除いておいたので,今回温泉水路に落ちていた落ち葉は少しでした.前回書いたように,現在は落ち葉はできるだけ取り除く方針です.落ち葉をほとんど除いても,ストリームサイトの微生物はよく発達しています.ただし,落ち葉があるとそのすぐ周りは微生物がより発達しているような傾向はあります.

今回の調査の主な目的は,水流の速度をもう一度丁寧に測ることです.4年前に西原さんの研究の時は,小さな紙片やストリーマの小片を流して流速を測定しました.水面も水中も,その方法で測れます.今回は,機械学会のウェブサイトで紹介されていたストローを用いた簡易ピトー管での測定を併用しました.流速が30cm/s以上では,小片を流す方法と簡易ピトー管の測定値は,よく一致していました.30cm/s以下では,簡易ピトー管はなかなか測定が難しいですが,10cm/sまでは一応測定できました.ただし,低速域は小片流しの方が正確です.測定値は,ほとんど流れがないところから,80cm/sまで多様でした.それぞれの場所での発達微生物と流速は関係すると考えられるので,今準備中の論文に記載します.

調査地点の名前の呼び方について,少し書いておきます.現在,主に川原の2カ所の調査地点を使わせていただいていて,どちらも温泉の権利は中房温泉の所有です.一カ所は,登山者用第一駐車場の下の川原の砂防ダムのコンクリート壁(角度80°)に割れ目から流れ下っている温泉とその下の水平に近い流れです.もう一カ所は,県道の終点のロータリーのすぐ奥の中房温泉の駐車場の下の川原の多量の温泉の流れです.当初,都立大学グループでは,それぞれ登山者用駐車場の下(または砂防ダム)とロータリーの下と呼んでいましたが,その後,SiteA,SiteBという呼び方を使っていました.西原さんが論文を書いたときに,wall siteおよびstream siteと記載し,北緯・東経を明記しました.SiteAの温泉は日帰り温泉に利用されており古事記の湯と称されているので,今後Kojiki Springと呼ぶのが良いのではと考えています.SiteBの温泉はお風呂にはまだ利用されていませんが今後,研究調査地点の下流側から採湯して利用する予定があるとのことなので,その名前が決まればそれを使って呼ぶのが良いのではと考えています.今準備中の論文では,詳しい流路地図を載せようと考えているので,その時,新たな名前を使えればと考えています.ご意見があれば,お知らせ下さい.

中房温泉の宿は,コロナで経営が大変のようで,冬でも少しでもお客さんに来ていただければとのことでした.(ただしすばらしい温泉の集客力があるので多くの旅館よりは良いようです.)最初の年に4回行った他は,過去3年は毎年2回ずつ冬に行っていましたが,今年は3回行こうかと考えています.片道13km(標高差740m)を歩いて中房温泉へ行ってみたいかたがいらっしゃいましたら,ぜひお出かけ下さい.研究がらみでも,それなしでも問題ありません.必要な情報は提供できますので,お問い合わせ下さい.なお,2月は途中の道路で雪崩の危険性が増すので,できるだけ避けるように百瀬社長から言われています.

11月20日の中房温泉

11月19日−20日に中房温泉に行ってきました.11月にしてはとても暖かい,9月下旬のような気温でした.19日は晴れでしたが,20日は小雨の中の作業となりました.調査地点の温泉の最高温度は,ストリームサイト(SiteB)が86.6℃.ウォールサイト(SiteA)が75.2℃で,通常のちょっと高めの温度でした.周辺の森はほどんど落葉が終わっていて,多くの落ち葉が温泉水路の中に溜まっていました.落ち葉を取り除くだけで1時間ぐらいの時間がかかりました.落ち葉が栄養塩や有機物の供給に有意な役割を果たしているかどうかはいつか研究したいですが,ひとまずそれは後回しです.80℃以上の温度では落ち葉が真っ黒でした.ブラックストリーマーと同じ微生物群集のためかもしれません.70℃台になると,褐色のままの落ち葉です.

温泉流路の地図を作るために,規制外の小さなドローンを買って同行した娘に上空からの写真をとってもらおうとしましたが,風があってうまくコントロールできませんでした.それで,写真の画像処理では多くの経験を積んでいる娘はスマホで背伸びして上からの写真を少しずつとって1枚に合成して全体の写真を作ってくれました.真上からの写真は,斜めからよりずっと全体像を正しく把握しやすいです.写真から線画の流路地図を作ってもらっています.発表や論文用です.9月のサンプリングは16カ所で行ったので,それの詳しい場所を示す必要があります.娘は大学でデザインを学んだので,写真の加工や線画の作成はプロです.

9月のサンプリングで,16カ所で多様な硫化水素濃度,酸素濃度,酸化還元電位,吸収スペクトル,微生物の種構成がわかってきたので,そのうち最高温度(85-86℃)のブラックストリーマーのブラックの原因を探るのが,今回の目的です.硫化鉄かその他の原因かを探ります.地球生命研究所のShawn McGlynnさんとFátima Liさん,海洋研究開発機構の河合繁さんとの共同研究です.河合さんの予備実験で,ブラックストリーマー以外のグレイやその他のストリーマーに,別の種類の鉄化合物の結晶が含まれている可能性もあるので,それも同時に調べます.温泉水中の鉄濃度も測定します.

これまで,中房温泉で微生物の研究を行ってきた目的の一つは,地球初期の太古代の生物群集における電子移動を伴う物質変換・循環を,エネルギー変換との関係で探るための情報を得ることでした.元素として,炭素,酸素,水素,イオウ,窒素については,成果を得て論文を発表してきました.ブラックストリーマーの研究から,いよいよ鉄についての研究も始めました.これで,エネルギー移動に関係して電子移動を伴う元素がすべて揃うことになります.地球の初期進化の過程で,それらの代謝系がどのように獲得され,それらがどのように相互作用をするようになったかが,生命の進化そのもの,および生物群集と生態系の進化に密接に関係すると考えています.

中房温泉の通常シーズンの宿泊は,11月23日泊が最後です.12月1日から4月23日までは,ふもとからの道路が冬の通行止めになります.5年前から,西原亜理沙さんの研究をきっかけに冬にも歩いて調査に来させていただくようになって,今年は6シーズン目です.これまでに10回来て,今年の3月には初めて一人で歩いて来ました.前後5kmに誰もいない雪景色の道を一人で歩くのは,最大の大声で好きなことも言えたりして,特別な世界です.宿には2人の冬の宿守の方がいて,歓迎していただけます.お風呂は,大浴場だけが使用できます.そこの窓を開けて,雪景色を眺めながらの入浴も格別です.研究のためにご一緒いただける方は,どうぞご連絡下さい.

10月23日の中房温泉

10月22日−23日に中房温泉に行ってきました.天気予報は22日午後と23日午前の両方が雨だったのですが,22日は到着した12時ごろから15時半頃まで曇りで,作業が進みました.今回は第一の目的は,サンプリングサイトのきちんとした地図をつくることで,全体が見える写真を撮影して,いろいろな距離を測って来ました.地図を作るための写真はもう撮影し終わったつもりだったのですが,横から温泉の流れとその背景を広く撮影した画像なくて,地図がうまく作れませんでした.今回は,1mのスケールを入れ込んでいろいろな方向から撮影してきました.googleの衛星写真が今は30cmの解像度でなんとか読み取れるので,今回の写真を合わせて使うと平面図がつくりやすいはずです.サンプリング場所の緯度経度も数センチの誤差で指定できます.それから22日は,9月の短時間豪雨ですっかり埋もれてしまった川に一番近い温泉水の水路も,なんとか掘り出せました.

23日は雨が降り続いていましたが,GoyaLab社の日本代理店のKLV株式会社からお借りしたIndiGoというGoSpectroより性能のよい超小型分光光度計の試用をしてきました.硫化水素濃度の比色定量とマット懸濁液の吸収スペクトル測定です.駐車場のセレナのバックドアの下に小型テーブルをセットして,下の川原との間の急坂を7回下り上りして測定しました.吸光度への変換はパソコンで行うのでまだですが,きれいに測定できたと思います.IndiGoは光量測定のためのサンプリングタイムを1msから2000msまで変えられるので,GoSpectroよりかなり使いやすいです.両機種ともスマホを利用した超小型分光光度計という点は同じですが,GoSpectroがスマホのカメラをスペクトル受光に使うのに対し,IndiGoは専用のスペクトル受光部を備えていて,スマホはデータ処理だけに使います.

今回の微生物の状態は,化学合成細菌群集については,登山者用駐車場の下のWall Siteもロータリーの下のStream Siteも,今年最高の発達状況でした.7月の大雨の後だいたい回復していた9月26日−28日の時より,倍ぐらいの現存量に見えました.Chloroflexusを含む群集は,9月の時とほぼ同じような状況でした.Chloroflexusを含む群集は,Wall Siteでは10年前に比べて1/10ぐらいの発達状況です.理由は,その場所の温度が5度近く上昇したからです.その分,化学合成細菌群集はかつての何倍も発達しています.Stream Siteは,10年前に比べると化学合成細菌群集は50倍ぐらい,Chloroflexusを含む群集も3−4倍に発達しています.数年前に大洪水で60cmぐらいの厚さの砂で埋まってしまった後,百瀬社長のご了解を得て温泉水路や温泉水プールを作らせていただいたのが,今,最高の状態になっています.

前回のサンプリングの16カ所の群集の吸収スペクトル解析も,外注でお願いした16Sアンプリコン配列解析も,とても面白そうな結果が得られて,データ整理をしばらく続け,追加の遺伝子解析もできれば行って,論文にできそうです.ちょっとだけ予告すると,アーキアが特定の群集だけで検出され,ある群集ではアンプリコン全体の17%を占めていました.ある群集ではAquificalesとThermodesulfobacterialesだけでアンプリコンの97%を占めそれぞれ1種と考えられました.Thermodesulfobacterialesは全部の群集に含まれ,化学合成細菌群集でもChloroflexusを含む群集でも,それがいないと群集が成立しないような本質的に重要な役割を果たしていると考えられました.

次の研究は,イオウ,窒素,水素,鉄,炭素代謝に注目した,集積培養に挑もうとしています.先に行ったの6種類の群集の解析結果と,硫化水素濃度,酸素濃度,酸化還元電位の詳細な測定を,サンプリングや培養条件の設定に役立てられると思います.まだデータ整理と論文書きがあるので,予備実験や練習実験を12月から始められればと考えています.百瀬社長には,今年も道路冬期閉鎖中も歩いてきてよいと言っていただきました.どなたでも,この研究を一緒に進めることを検討いただけるようでしたら,どうぞご連絡下さい.

9月28日の中房温泉の微生物

9月26日−28日に中房温泉に行ってきました.前日の25日の金曜日に,若干の前後も含めて100mmの大雨が降って,夜は道路が通行止めでした.前の週の金曜日とほぼ同じ雨量,降り方でした.その降り方というのは,時間雨量が最大でも10mmぐらいで一日中降り続くという降り方です.その雨量と降り方だと,少し砂が流れ込んだり,上流で剥がれて流れ込んだストリーマーやマットが少し多い他は,温泉の温度,水流,微生物にほとんど影響を与えないことがわかってきました.川の水量自体もあまり影響しません.7月のように大雨が長い日数続くと,温泉の温度,水流,微生物に大きな影響があります.20年以上中房温泉に通った経験では,そのような大雨が長く続くのは数年に1回という感じです.その中でも今年は特別に大きな影響があったのは,7月にこのページの下に方に書いたとおりです.今回は,温度ロガーで温泉の温度をモニターしており,雨量のデータも長野県のサイトから取得していて,2つの源泉での対照的な温度の動きも明らかなので,その部分を別の論文にして発表しようと考えています.微生物群集の発達の研究の基礎データとして,有用だと思うからです.

今回は,妻の全面的な協力と,卒業生のSKさんとMIさんが一泊手伝ってくれて,多くのサンプリングやデータ取りをすることができました.78℃〜86℃の化学合成細菌群集8カ所と,63℃〜68℃の酸素非発生型光合成細菌群集8カ所です.吸収スペクトルを現場でスマホに装着した分光器で簡易的に測定し,帰ってきてから研究室で普通の分光光度計できちんとしたスペクトルを測定しました.現場と研究室では,30-50時間の経過がありましたが,黒いストリーマーの色が少し薄くなっていたり,鮮やかだったクロロフレクサスマットの一部が少し黒ずんでいた他は,大きな影響がないことがわかりました.濁度の影響を下げるために60%(w/w)のショ糖液に懸濁し,氷温で保存しました.

硫化水素濃度の比色測定は,現場でスマホに装着した分光器で行い,こちらはスペクトルでないのでその簡易型の分光器で十分な比色定量ができました.そのほかに,電極で溶存酸素(DO),酸化還元電位(ORP),pHを測定しました.硫化水素濃度は,推測していた以上に場所によって違いました.硫化水素濃度は,基本的にはDOやORPと相関していましたが(硫化水素濃度が高いとDOが低く,ORPも低い),必ずしもその相関に合わないところがあり,温泉水流と微生物の状況で説明できそうでした.

16SリボソームのDNAのアンプリコン解析のためのサンプリングも,SKさんの注意力と技術で,それぞれの群集をかなり均一な状態で採取できたと思います.環境条件が多様なのにつれて群集構造(種構成と相対含量)が変化する部分と,環境条件が多様にも関わらず群集構造が似ている部分と,一見環境条件が似ているのに群集構造が違う部分のそれぞれが明らかになると期待しています.

今回は,16カ所のサンプリングをしたことで,今までほとんど見てこなかった群集も含まれます.そこから何か新しいことが見つかることも,期待しています.群集懸濁液の吸収スペクトルを測定したことも初めてなので,それとの関係でも何かわかるかも知れません.何かわかったら,概要をここで報告し,きちんとしたデータで論文を書ければと考えています.

9月19日の中房温泉の微生物

9月18日−19日に中房温泉に行ってきました.午後は時間雨量が多くて11mmと8mmで時々経験する程度でしたが,上流では短時間でもっと降ったらしく,研究調査地点の数メートル先を流れる中房川が,濁った水でみるみる増水して,私は初めて見る光景でした.有明荘の前の中房の測定地点の累積雨量も28時間連続降雨で95mmを超え,午後6時ごろから道路が通行止めになりました.幸い,真夜中には雨もやみ,翌日19日の朝6時頃に白滝に湯に行ったときは,川はほぼ通常の水量となっていて,濁りもなくなっていました.川の流れの急激な変化におどきました.

7月に豪雨が続いたときは,温泉水の温度や水量が大きく変化し,そこの微生物にも大きな変化があったのは以前にも書いたとおりですが,今回の大雨ではほとんど変化しませんでした.温泉水に影響を与えるのは,川や地表の水の流れでは無く,地上付近の地下水位ではないかと考えました.川が増水し地表を多量の雨水が流れても,すぐには温泉水に影響することはなく,そのような状況が長く続くと表面付近に地下水位が上がって,温泉水に大きな影響を与えると推察します.今回の観察と,7月の観察からの考察です.

今回の調査で,7月の大雨の微生物への影響がほとんど無くなってきたので,来週に予定通り本調査をすることにしました.ロータリーの下の川原近く(通称SiteB)の調査地点の内,川にいちばん近いところは,今回の増水で埋まってしまったので,19日にはまた出ていましたが来週までに微生物マットが回復することは期待できないので,そこでの調査はとりやめることにします.残りのSiteBの調査予定の10地点の温度や微生物の生育状況は上々です.川のすぐ近くの代わりの別の地点の流れを調整してきました.

登山者用駐車場の下の砂防ダムのところ(SiteA)は,温度は完全に元に戻って安定していて,化学合成細菌のマットは絶好調ですが,クロロフレクサスのマットは,まだ回復途中です.温度が低い時に生育したシアノバクテリアやロゼイフレクサスが,まだコンクリートの壁に張り付いて残っている影響が大きいようなので,クロロフレクサスのマットが発達し始めた周辺の,温度が低いときの名残のシアノバクテリアやロゼイフレクサスを一部剥がしてきました.来週までにクロロフレクサスマットが拡がっていることを期待していますが,もし拡がらなくても次週の目的に十分のクロロフレクサスマットは,すでに形成されていました.

9月5日の中房温泉の微生物

9月4日−5日に中房温泉に行ってきました.4日は雨でしたが,5日は晴れて暑くなりました.前回訪問してからの3週間の雨量は58mmで,その前の2種間の3mmよりは雨が増えていますが,川の水量はさらに減って最低時に近いです.ただし,8月21日には1時間雨量が22mmと記録されていて,少し激しいにわか雨がありました. 周囲の森の木々の緑は,今までになく濃くなっていました.7月の多量な雨の後,8月の日照が多かったので植物には良くてこのように濃い緑になったのではないかと考えました.温泉の温度や湧出量は,ほとんど通常に戻っていました.

登山者用駐車場の下の砂防ダムのところ(SiteA)の温泉水は,前回の8月16日最高温度63.7℃から76.8℃まで上がり,完全に7月の大雨前の温度に戻っていました.微生物マットの状態は,まだ温度が低かった時の影響を大きく受けていて,通常の状態には戻っていませんでした.ただし,60℃以下になったときに大きく広がっていたシアノバクテリアのマットは,65℃以上のところにはほとんどなく,Roseiflexusと推測される色のマットに覆われていました.今後1−2週間で70℃以下はクロロフレクサスマットとなり,70℃以上では化学合成細菌マットになっていくと予測しています.

ロータリーの下の川原近く(通称SiteB)は8月16日の時とほとんど同じ86.7℃で,3週間前からずでに通常の安定状態の温泉湧出になっていると考えられます.SiteBの微生物マットやストリーマーの成育状況は,温度が安定しても特によくなることは無く,3週間前とほぼ同じような状況でした.時々,速い流れでちぎれて下流に流されていくので,生産量と流される量がほぼ均衡している定常状態にあると考えられます.温度が高くて水量が多い時の方が,定常状態のマットやストリーマーの量が多かったと思います.このことの説明としては,前回書いたようにこの場所では温度が高いときは地表付近の地下水が混ざって水量が多くなっていて,成育に必要で深部からの温泉水には不足している栄養塩が補われている可能性があります.

その仮説は,中房温泉の一番大きな源泉の「大弾正」のすぐ下の温泉プールの微生物マットやストリーマーの成育状況からも,支持されると考えられました.そのプールは,80℃以上のところが多いのですが,いくつかの流れが混ざっていて,60℃から85℃の温度勾配ができています.そこの微生物マットやストリーマーがこれまでの20年間で今回一番よく発達していて,通常の数倍の微生物量でした.これは,多量の雨水で地表水が多く流れ込んだときに供給された栄養塩の影響でバイオマスが増え,その影響が温度が回復した後にも残っているためであると考えました.

今回の予備調査と練習調査は,雨の時や直射日光が強い時も含め,温度,硫化水素濃度,DO,ORP,pH,微生物マット懸濁液の吸収スペクトル,微生物マットの反射スペクトルについて行い,微生物マットの反射スペクトル以外は問題なく測定が進むことがわかりました.微生物マット懸濁液の吸収スペクトルが思った以上にうまく取れそうなので,外光の影響制御が難しい微生物マットの反射スペクトル測定はやらないことにすると思います.今後台風等の豪雨さえなければ,本調査とサンプリングを9月26日−28日に行う予定です.流れを調整して温度を確認調整するために9月18日−19日にも行ってきます.

8月16日の中房温泉の微生物

8月15日−16日に中房温泉に行ってきました.前回に行った7月31日に梅雨が明け,その後は晴天が多く,この間全部で3mm雨が降っただけです.6月末から7月の前代未聞の豪雨の影響が,大分少なくなってきました.登山者用駐車場の下の砂防ダムのところ(一般者立入禁止,通称SiteA)の温泉水は,今回最高温度が63.7℃で,1ヵ月で25℃回復しました.通常の75℃前後まで,あと2−3週間で回復するのではと見込んでいます.シアノバクテリアは元気で,クロロフレクサスのマットも少しずつ再形成されつつあります.

ロータリーの下の川原近く(一般者立入禁止,通称SiteB)は逆に,86.5℃まで少し温度が下がり,通常の85℃にこちらも近づきつつあります.前に書いた,SiteBは雨で温度が上がり,雨の影響がなくなると戻るという仮説は,本当らしく思えます.その説明としては,SiteBの近くには,温泉水の他に,より高温の蒸気が早く上がってきている場所があって,地表付近の地下水を地下からの温泉水以上の温度にする効果があり,それらが一緒になって出てくるので,通常より4℃上がったという説明です.それをサポートする観察結果として,温度の上がったときに水量も上がっていたのが,今回は水量もほぼ元に戻りました.また,水量が上がっていたときは,化学合成細菌の群集の発達が貧弱になっていたのが,今回はまた回復していました.これは,もしかしたら,水量が上がって硫化水素濃度が下がったためかもしれないと考えています.

今回は,溶存酸素(DO),酸化還元電位(ORP),pHの測定を,3連でSiteBで行う練習実験をやってきました.USB電源のスターラーはとても調子よく,再現性のあるデータが取れる見通したつきました.炎天下での測定は若干の問題もあって,次回は日よけ対策を考えます.いくつかの場所のデータを以下に書います.源泉,86.4℃,DO 0.9%, Eh -180mV, pH8.50, 源泉から約5m下流のgray streamerが良く発達しているところ,80.0℃,DO 0.6%, Eh -110mV, pH8.50, 上左のクロロフレクサスプール,68.0℃,DO 0.7%, Eh -98 mV, pH 8.48, 上右のクロロフレクサスプール,65.2℃,DO 0.3%, Eh -105 mV, pH 8.22,源泉近くの新しいクロロフレクサスの流れ,66.0℃,DO 70.2%, Eh -2 mV. pH 8.78,最下部のクロロフレクサスプール,67.0℃,DO 56.6%,Eh 136 mV, pH 8.76,川の近くのクロロフレクサスの流れ(洪水からの回復途中)65.4℃,DO 59.8%,Eh 64 mV, pH 7.92.

このデータを見ていただければわかるように,これまで注目していた温度の他に,溶存酸素濃度や酸化還元電位も場所によって大きく異なることがわかってきました.6月の予備調査で,硫化水素濃度も場所によって,意外に大きく異なるというデータが得られています.これらの環境条件の違いで,微生物の群集構成がどう異なるのか,どう異ならないのか,それはそこでの物質循環やエネルギーの流れにどう関係するのか,知りたいです.また,それが40億年前(生命誕生)から25億年前(酸素濃度が増えた)までの微生物機能や群集・生態系の進化とどう関係するかも,知りたいです.引き続き,この研究に一緒に参加していただける方がおられましたら,どうぞご連絡下さい

7月31日の中房温泉の微生物

7月30日ー31日に中房温泉へ行ってきました.前回に行った7月18日以後,2週間で225mmの雨が降りました.その前の2週間の639mmよりは大分少ないですが,23日から28日の6日間に216mm降っており,川の増水の程度は7月18日より少し多かったほどです.

雨量に対して温泉水の温度は,複雑な関係にあることがさらにわかりました.登山者用駐車場の下の砂防ダムのところ(一般者立入禁止,通称SiteA)の温泉水は,7月18日の37℃の最低から徐々に回復し,31日は15℃上昇した52℃でした.23日から28日の6日間に216mm降った影響はほとんど受けていないようでした.7月6日から8日の3日間に321mmの大雨が降った影響だけが特に大きく,その後ほとんど降らない時でも,7月20日まで37℃でした.

一方,ロータリーの下の川原近く(一般者立入禁止,通称SiteB)の温泉水は,SiteAが37℃の間は,ほぼ89℃をキープし,その後25日へ向けて84℃まで下がりその後31日に88℃に上がっていました.SiteBは,雨が降っている間だけ少し(1-3℃)下がり,やむと少し上がる傾向があるようにも見えますが,SiteAに比べると大雨でもほぼ一定と言えます.SiteBの雨の少しの影響は,地表水が混ざり込むことが考えられます.そのような傾向はSiteAでは見られず,特に多量の降雨の影響が数日から十数日遅れて地下水を通して表れるという印象です.

7月17日にセットした,照度と気温のデータロガーのデータもきちんととれて,今後,微生物マット・ストリーマー成育の基礎データとなる水温(10カ所),気温,日照,雨量(この項目のみ長野県のデータ)のデータが,1時間ごとに得られることになります.

環境条件の測定練習としては,酸化還元電位(ORP)と溶存酸素濃度(DO)が,再現性よく取れるようになってきました.(pHと電気伝導度はもともと問題ない).ORPは,前回値が安定しなくて読み取りがとても難しかったので,酸化還元メディエータとして50 μmol/Lのメチレンブルーを添加したところ,安定して測定できました.値も,納得感のあるものでした.DOは攪拌がカギで手で攪拌するのはとても大変なので,次回はスターラーを用意します.USB電源で駆動する比較的安価なマグネチックスターラーがあったので,発注しました.

温度や日照,硫化水素濃度,ORP, DO, pHなどの環境条件をしっかり測定した上で,今まで以上に,中房温泉の高温微生物マットの多様性を,詳しく解析したいと考えています.台風さえ来なければ,9月下旬に本調査,本サンプリングができると目論んでいます.調査場所は,70℃から80℃で8カ所,63℃から67℃で8カ所を予定しています.今からでも,この研究に一緒に参加していただける方がおられましたら,どうぞご連絡下さい

7月18日の中房温泉の微生物

7月17日−18日に中房温泉へ行ってきました.7月6日から8日の3日間に321mmの雨が降り,6月25日から7月15日までの21日間に833mmの雨が降りました.中房温泉へ定期的に通い始めて19年になりますが,これほど長期に続けて多量の雨が降ったのは,今回が初めてです.

登山者用駐車場の下の砂防ダムのところ(一般者立入禁止,通称SiteA)の温泉水は,最近の通常より40℃近く低下していました.6月26日に75℃付近の温度だったのが,7月6日までに徐々に低下して70℃になり,その後,7月7日に60℃,7月8日に50℃と急激に低下して,7月14日に40℃,7月18日に37℃と徐々に温度が低下しています.これほど,この場所の温度が低下したのは,18年間で始めてです.温度と雨量の関係グラフは,現在作成中です.

これに引き換え,中房温泉入口のロータリーの下の川原近く(一般者立入禁止,通称SiteB)の温泉水は,雨の影響をほとんど受けず,逆に少し高くなったことを伺わせました.上記の場所と同じ日の温度は,6月26日85℃,7月6日87℃,7月7日88℃,7月8日89℃,7月14日88℃,7月18日88℃でした.このような2カ所の温度に対する降雨の影響の違いは経験的には知っていましたが,温度の自動記録(データロガー)でデータとして観測したのは,今回が初めてです.

SiteAは,今後,雨があまり降らなくなった後,どのように温度と,微生物マットが回復していくかが楽しみです.

SiteBは,大雨の影響で一部水路が崩れ,多量の土砂が流れ込んでいたので,数時間かけて通常の状態にできるだけ戻してきました.また,川のすぐちかく(1-1.5m)の水路は土砂に完全に埋まっていたので,上の土砂を水路の部分だけ取り除いてきました.取り除いた後の温泉の温度は,通常と同じ73℃でした.

今年初めて,温度データロガーを野外温泉水10カ所に設置しことで,雨量との相関関係がわかってきました.雨量計(長野県)は,有明温泉宿のすぐ近くの上流側の道路より(SiteAより南東150m, SiteBより南南東400m)にあります.今回,日照のデータロガーを設置してきましたので,今後,気象データと温泉水温度,微生物群集の発達状況の関係がわかっていくと思います.

温度,雨量,照度のデータは,どなたにでも提供しますので(研究にご使用されるのもご自由で条件はありません),ご希望の場合はご連絡下さい