きちんとしたポストを得て研究者になるのは,とても難しいのではないかと考えている大学院生や若い研究者の方が多いと思います.芸人やスポーツ選手として生活することに比べると,研究者として生活できるようになるのはそれほど難しくないです.会社で40代・50代になっても引き続きやりたい仕事を続けていくことに比べても,それほど難しくありません.
難しいと感じるのは,ポスドク後の終身雇用(テニュア)のアカデミックポストを得るところの門が狭いからです.確かに狭いですが,比較的公平に選考が行われていると感じています.私も,大学在職中に20ぐらいの人事選考に関係しましたが,十分公平に行われていました.
では,どうしたら公平な人事でポストを獲得できる可能性が高まるか,私見を書いてみます.選考に関わった分野は,基礎的な生物学です.ここまであればほぼ万全という内容を書いてみましたので,多くの人はこのレベルに達しなくてもポストを得ています.また,ここに書いたような力をつければ,学位取得後やポスドク後に企業や行政などの職についても,十分力を発揮して充実した人生を送れると思います.
特に大切なのは,自分が研究を大好きかどうかです.まだ知られていない研究テーマを探すのが好きで,困難を乗り越えて問題を解決するのが好きで,得られた研究成果を他の人に伝えるのが好きで,他の人と一緒に研究をするのが好きだといいです.また,自分が大好きな分野や対象や現象があるかどうかも大事です.最初はなんとなくでも,だんだんと大好きになっていくのでも大丈夫です.途中で大好きが変わっても大丈夫です.研究すること自体や研究する対象が大好きということより,研究者になりたいとか研究する職業に就きたいということが先にあると,少し難しいです.
目次
- アカデミックポストの人事選考の例:私の経験から
人事選考の過程/公募選考は公平に行われているか/応募者の状況 - 何を基準に人事選考が行われるか
公表論文の数と質/研究成果での本人の創造性や独創性/多くの研究者との交流・議論・共同研究/教育や社会貢献の経験/所属組織や学会でのサービスの経験 - 人事選考に使われる実績と能力をどう上げるか
公表論文の数と質/研究成果での本人の創造性や独創性/多くの研究者との交流・議論・共同研究/教育や社会貢献の経験/所属組織や学会でのサービスの経験/時間と生活のマネジメント力
(付録:めげずに続ける/思い切って別の道を探る)
1.アカデミックポストの人事選考の例:私の経験から
人事選考の過程
私が在職した東京都立大学(首都大学東京)の生物学科・生命科学科では,人事は5段階の選考過程を踏んでいました.途中で変わりましたし現在は違うかも知れませんが,典型的な過程を書いてみます.人事小委員会(4名),人事委員会(7名),学科会議(30名),学部教授会(100名),大学の人事委員会(数名)です.この5段階で承認されないと決まりません.一番実質的なのは,最初の人事小委員会です.人事委員会や学科会議では,ごくたまに差し戻しになることがあります.学部教授会や大学の委員会は,選考が公平に規則通りに進められていれば,まず通ります.
公募選考は公平に行われているか
私が採用側で経験してきた人事は基本的に完全な公募です.完全なとわざわざいうのは,世の中の組織によっては内部昇格や特定の候補の採用がが前提なのに,形式を整えるために公募にする場合があるからです.コンプライアンスの時代でそのような疑似公募は減ってきていると期待します.なお,私が所属した組織では内部昇格が前提の人事があり,その場合は公募はしませんが,そのかわり分野の設定が広くて学科内の教員の多くがその内部昇格人事に応募することができました.
応募者の状況
応募者は,1つのポストに少なくても数人,多いときには100人ぐらいが応募します.大切なのは,その中で選ばれることです.率直に言って,私が人事に関わったうちの半分ぐらいは,まさに適任で採用したいというような人が応募者の中にいません.そのため,相対的に良さそうな人を採用します.ということは,採用側がぜひ採用したいと考えるような実績と能力(人間力を含む)があれば,アカデミックなポストに採用されることはそれほど難しくないということです.採用側はそういう人を探しています.そのような人にどのようになるかというのを,次の2項に書いてみます.
2.何を基準に人事選考が行われるか
大きな選考基準は,採用後にその組織にどのぐらい貢献できるかです.アカデミックポストの場合は研究と教育と運営です.研究所の場合でも,実験系は若い人とチームを組んで進めるので,教育面も評価されます.テニュア(終身在職権)が付いているポストの場合は,採用時ですでに十分な研究力と教育力と運営力があることが求められます.テニュア(終身在職権)を得られると研究・教育・運営への情熱や成果が減る人もいるので,そうでないかが見極められます.具体的な評価項目を次に書きます.
公表論文の数と質
(数は分野によります.下記に書いてあるのは私が関係した分野の例です)
論文を書き始めて数年以上たった32歳から37歳ぐらいの時点で,第一著者が10報,共著を含めて20報ぐらいあるといいです.査読がある雑誌であること,英語論文で国際的な評価を受けられることは前提です.一流の雑誌であることは評価されますが,その論文が外国の論文に引用さえされればそれほど有名でない雑誌でも大丈夫です.
一つのグループにずっと所属して良い論文をたくさん書いていても,本人の力かどうかが分かりにくいので,できれば3つの研究グループで,それぞれで複数の第一著者の論文があるといいです.
研究成果での本人の創造性や独創性
これまでの研究論文の成果の中で,本人の創造性や独創性が発揮された部分が明確に示されることが重要です.研究論文の数が一定以上あって,その中で本人の創造性や独創性が発揮されていれば,採用後もコンスタントに研究成果を上げ,若い人を指導しても研究成果を上げさせることができる可能性が高いからです.グループの過去の成果や指導者の力にもっぱら頼っていたとしたら,いくら論文数が多くても採用側は躊躇します.
さらに,小さい部分でもいいですから,すでに特定のテーマでは世界の第一人者であるといいです.今はまだ第一人者ではなくても,もうすぐ第一人者になれそうだということでもいいです.論文はたくさん出ているけれど似ているような研究をしている人が世界中に多くて,その中に埋もれてしまうかもしれないということでは,弱いです.
多くの研究者との交流・議論・共同研究
採用後に長年継続して高いレベルの研究を続けるためには,一般的に,本人の力だけでは難しく,多くの研究者との交流・議論・共同研究をすることが効果的です.研究に必要な情報は,一方的に得ようと思っても得られるものではなく,双方向的な情報提供,時には利害調整のためのギブアンドテイクも必要です.また,異質な人たちとの交流・議論の中で,一緒に新しいアイデアを創出し,それが真に新しい共同研究として実る場合もあります.
このような多くの研究者との交流・議論・共同研究は,急にできるものではありません.大学院・ポスドク・期限付きPIの時期を通して,意識してその力を育む必要があります.特に,外国の一流の研究者との研究上の交流が続いていれば,一流の研究者は相手の実力を値踏みしながらつきあう傾向もありますので,美辞麗句も書ける推薦状より評価項目に使える場合があります.
教育や社会貢献の経験
大学であれば,授業をする能力はとても重要です.助教職であっても,実験指導などの模擬授業をさせられることもあると思います.今はどこの大学院でもティーチングアシスタントをする機会があると思いますので,そこで自分なりの工夫をいろいろして学生から高い評価を得た経験があると,教育面でのキャリア形成に役立ちます.少ない時間数でも,講師の経験やそれに準ずる経験も評価されます.講師を依頼されたこと自体が,信用度を高めます.
研究指導力は大学でも研究所でも重視されるので,大学院・ポスドクの時期を通して,研究室の若い人や留学生の研究を,どのようにサポートしたかは,とても重要です.若い人の研究にミドルオーサーとして参加した論文が複数あり,いずれも指導者の指示ではなくて,自発的に協力して結果として共著になったということがあれば,申し分がありません.大学院・ポスドクの間は,自分の研究だけをやっていたというのでは弱いです.
社会貢献の経験も最近は重視されるようになりました.組織自体の評価項目に社会貢献が大切になってきているのに加え,研究に対する社会の理解を得ることが研究資金の獲得にも繋がるからです.まずは,自分や研究室の研究を,大学や研究所の一般公開の機会に紹介するアウトリーチ活動を,どのくらい積極的にやってきたかが問われます.またそのような既存の機会ばかりでなく,相手から依頼されるのではなく自分から仕掛けて高校などを訪問してアウトリーチ活動をしていれば,採用後も企画・運営の中心になってくれることが期待できるので,高評価です.
所属組織や学会でのサービスの経験
生命科学では,これらのサービスの経験はまだあまり重視されていませんでしたが,工学系の人事を一度手伝ったときに,これらはすごく重視されていました.もしかしたら,生命科学ではこれまでは,研究と教育の経験と実績が十分あれば,サービスの経験も皆あるのが普通だったからかもしれません.これからは重視される可能性が高いので,若いときから積極的に所属組織や学会でのサービスの経験を積んでおくといいです.ここでも,頼まれてやったということではなくて,自分から手を挙げてやったという方が評価されます.難しい仕事や多くの時間を割く仕事の場合は,断らなかったというだけで十分です.ただし,その場合でも,期待された以上のことをやったということだととてもいいです.
3.人事選考に使われる実績と能力をどう上げるか
公表論文の数と質
どの研究グループに所属し,誰を指導者・メンターにするかが,とても重要です.活発に学会発表や論文発表を行っている研究室がいいです.絶対数ではなく,大学院生やポスドクの人数あたりの数です.全員とは言いませんが,2/3ぐらいの構成員がアクティブに論文発表をしている研究室がいいです.自分がそこでの研究に興味があれば,細かい研究分野や内容,研究費,設備,場所,給与は,あまり優先しない方がいいです.
あまり大きな研究テーマに取り組むと,論文の数が増えません.よく工夫して,小さいテーマではあるけれど,新しくて意義があることで,その研究グループや自分の経験を活かせるテーマをじっくり探すと,論文になりやすいテーマが見つかると思います.
大きな研究費をとっているグループは,大きなテーマに取り組まなくてはいけなくて,研究テーマを変える自由度が低いことが多いです.大きな研究費をとっていないけれど,それなりに論文発表数が多い研究室の方が新しく参加する人でも,自分を活かした論文を書きやすいことが多いです.
研究テーマは,やってみないと比較的短時間で成果が出そうかどうかが分かりませんので,やってみて難し過ぎそうだったり,時間がかかり過ぎそうだったりしたら,早めにテーマを変えるのがいいです.これは,指導者の利害とぶつかるときも多々あります.指導者は,小さい成果の論文の数はもう必要なくて,少し時間はかかっても大きな成果の論文がほしいことも多いからです.若い人はそうはいきません.大きい成果を上げても指導者の成果になって,若い人の成果とは見られない場合も多いです.指導者が時間がかかっても大きな成果を求めるフェーズや考えだったら,早めに別のグループに移った方がいいかもしれません.
研究成果での本人の創造性や独創性
創造性や独創性の力をつけるにはとても時間がかかり,ゆっくりしかつきませんが,きちんと取り組めば確実にそれらの力が向上します.あせらずに一歩一歩,適切に経験やトライアンドエラーを積み重ねるなかで,ついていきます.
創造性と独創性の力がしっかりつけば,結局は論文の数と質も上がり,力のある研究者から声がかかって交流や共同研究が進み,教育・社会貢献・組織貢献の力も上がっていきます.つまり,創造性と独創性の力を優先して向上させることが,アカデミックなポスト獲得の早道だということになります.
広い興味を持って,広い分野の勉強をし,多くの分野の論文を読み,研究発表を聞きます.普段から他人と違うことをやろうとする気持ちも大事です.人のまねをできるだけしないことが大切で,まずまねした方が効率は良いことが多いですが,それをやっているとなかなか創造性や独創性は育ちません.
流行りのテーマ,流行りの方法を追ってばかりいると,独自性がいつまでもつかなくて創造性や独創性のある研究になりません.これから流行りそうなテーマ,流行りそうな方法にいち早く取り組むのならいいです.ただしその場合でも次々に移ることはせずに,選んだらじっくりやり続けることが大切です.また古いテーマや古い方法でも,それらに新しい視点を取り入れて進めれば,古いテーマ・古い方法をリバイブすることができます.そういうところは,他の人たちがよってたかってやっていないので,独自性を出しやすいことも多いです.
そもそも創造性や独創性が問題にされることも多い美術や音楽や演劇を趣味やセミプロまがいとして続けるのも役に立つと思います.哲学,特にソクラテスやデカルトは,既存の知識は意味が無く,新しいことを自分で考える必要性を強調しているので,その辺が納得できるといいです.既存の知識や型や学問を習うことやまねすることから始めることが習い性になっていると弱いです.また,脈拍が大きく上がるような運動を継続して行うと創造性を含む脳機能が向上するという研究が多くあるようなので,毎日30分程度のランニングをするととても良いようです.そこまでできなくても週1-2回とか,ウオーキングとかでも効果はあるようです.
研究テーマについては,既存の問題の解決方法を工夫するのではなく,新しい問題を見つけたり創り出したりすることを心がけるといいと思います.自分がやらなかったら5年間ぐらいは誰も取り組みそうもない問題で,成果がでればすぐに注目されるような研究テーマを考えるのがいいと思います.
後は,トライアンドエラーを数多く繰り返すと,創造性や独創性が付きやすいような気がします.創造性や独創性が高い人と多く話すことも,役に立つと思います.少しテクニカルで練習がいりますが,楽しい経験も辛い経験も,うまくいった経験も残念だった経験も,多くの経験をすべて自分の中に素直に受け入れて蓄積していき,無意識下や夢の中でそれらが自由に楽しそうに相互作用し,考えようとしている問題に対して突然意識上に湧き上がってくるようなことが増えてくると,創造性や独創性が増えるような気がします.
多くの研究者との交流・議論・共同研究
まずは,研究室の中の人たちとの交流から始めるのがいいと思います.あいさつ,雑談,生活の中での交流,気晴らしの研究室メンバーとの外出などを通して,交流する力が高まり,日常の研究についての情報交換や議論,実験や発表での助け合い,そして指導者以外との共同研究に進みます.
次に,積極的に学会に参加して,できるだけ研究発表を多く行って,自分の話を多くの研究者に聞いていただき,他の人の発表を聞いて多くの質問をします.懇親会にも出席して,自分から多くの研究者と話をします.学会中の夕食は,できるだけ他のグループの人たちと一緒に食事をすることにします.
D2ぐらいからは,貯めた自費ででも,2年に1回ぐらいは国際学会に参加して,多くの外国の研究者と話をします.特に昼食と夕食は,できるだけ外国の研究者のグループに潜り込んで,一緒に食事をします.もうすぐ食事に行きそうな時間に,自分がやっていることに近い複数のグループの人が研究の話をしている近くで,興味深そうに一緒に話を聞いていると,食事を一緒にしないかと誘われる場合があります.逆に,そのような時間にひとりぽつんとしている若い人を見かけたら,一緒に食事をしないかと誘ってみると,応じてもらえる場合もあります.私が指導していた学生が外国の国際学会にひとりで参加するときに,お小遣いを渡して,外国人と食事をするときだけ使っていいと言っておくと,ちゃんと知らない人と食事をしてきていました.
後は,国内でも国外でも,ごく近いテーマで研究をしている研究者にメールを出して,研究室を訪問して研究について話を聞いてほしい,または実験について教えて欲しいと連絡をすると,かなりの確率で,来て良いということになります.研究室セミナーで話してくれということもあります.そういうことを大学院時代から積極的にやることで,交流する経験と実力が育まれます.
教育や社会貢献の経験
アカデミックポストを狙うなら,自分が教育や授業を受けるときでも早くから教員側の立場の意識ももって観察をしておくといいです.大学院でティーチングアシスタントの機会があれば,少し研究時間が割かれても,積極的に受けるのがいいです.最近は,大学によってはティーチングアシスタントの養成講座のような機会がある場合もあるので,それにも参加して指導者と議論をしておきます.研究室が学生実験を担当する機会があれば,ティーチングアシスタントとして依頼されなくても,ボランティアで学生実験室へ行ってサポートをします.大学等の非常勤講師を頼まれることがあれば,かなり負担でも引きうけます.
研究室の若い人や留学生の研究には常に興味をもって,日常的に自分から研究の進展を聞きます.その中で,自分がサポートできることがあれば,サポートします.若い人の研究にミドルオーサーとして参加した論文が複数あり,指導者の指示ではなくて自発的に協力して結果として共著になったということがあれば,申し分がありません.大学院・ポスドクでは,自分の研究だけをやっていたというのでは弱いです.
自分や研究室の研究のアウトリーチ活動については,大学や研究所の一般公開の機会があれば,例年通りのものを手伝うだけでなく,新しい企画を考えて運営の中心になります.時には,学科や部門の責任者も引きうけます.また既存の人脈を使うことでいいので,相手から依頼されるのではなく自分から仕掛けて高校などを訪問してアウトリーチ活動をします.
所属組織や学会でのサービスの経験
所属している学会で若手の会がある場合は,修士のうちから積極的に会合に参加します.そうして世話役と顔なじみになると,必ず,何か仕事を手伝って欲しいという声がかかります.その時,躊躇無く喜んで引きうけて,一生懸命に仕事をこなします.そうすると,だんだん難しい仕事を回されるようになり,最後は若手の会の会長とか代表をやってほしいということになります.それも引きうけて,今までどおりのことをきちんとやるのに加えて,新しい企画もやっておけば,万全です.その活動の中で,学会や大会の役員とも連絡を取ることもあるので,それも経験になり,人脈にも繋がります.
研究室の中の雑用も積極的に引きうけて,いままでにないようなシステムも考えて,研究室のメンバーが研究室を使いやすくなり,研究室で楽しくすごせるように貢献します.時には,学科内や学外の複数の研究室をまたがる行事や研究交流を企画して,実施します.
時間と生活のマネジメント力
上記のような実績と能力を上げているためには,時間と生活のマネジメント力を高めると効果的です.時間については,研究や研究関係の活動に使う時間を多くし過ぎないことも大事です.私は,週50時間で年間48週ぐらいを研究と研究関係・および成長のための活動にあて,それ以上は増やさないことをお勧めします.時間を増やさないことで,その時間の中でスピードと効率を上げていくことを工夫します.スピードと効率は,工夫と経験と試行錯誤でどんどん上がっていきます.私が過ごしてきた周りの人を見ても,考えることや他人と違うことが大切な仕事では,10倍以上の差も普通にあります.最初からスピードと効率が高い人はいませんので,だんだんと上げていきます.
生活については,調子のいいときと悪い時の波はあるのが普通ですから,悪い時を長引かせないことが大切です.長引かせなければ,悪い時の経験もプラスに作用してきます.特に大きな悪い波は飛躍のきっかけにもなりますので,あまり長引かせないようにして利用します.ただし,波があることはいいことでも,全体としては体と心の元気な状態を保つことが大切です.「体と心が元気になることば」を別のページにまとめてありますので,使えそうなところを利用しつつ,自分で工夫してみて下さい.また「研究室と研究テーマの決め方」のページにも,参考になることがあるかもしれません.
付録:めげずに続ける/思い切って別の道を探る
めげずに続ける
ここまで読んできて,自分はやっぱり研究を続けたいんだ,研究を続けるためには研究職に付随するいろいろなこともやりたいと思った方は,最初にも書いたように,ただひたすら研究と関連活動を続けていけば,かなりの確率で研究者になって,研究者として生活していけると私は考えます.ただし,研究がうまく進まない時をどう乗り越えるか,応募しても採用されないことが続くときをどう乗り越えるかは,大切です.
前者は,いろいろな人と話したり,多くの本を読んだりして,自分で処理しようと続けていると,そのような時を処理する力をつけることになると思います.
応募しても採用されないことが続くときは,自分の業績や能力が足りないと思いすぎないことです.採用人事をやってきた側から見ると,本人の業績や能力ではなく,採用したい細かい分野,教育や運営の仕事でどう活躍して欲しいか,すでにいるスタッフとの組み合わせなどの要素も大きいです.私の関係した組織では,これを「マッチング」と呼んで,評価の点数化に大きく組み込んでいました.ですから,採用に至らなかったときも,考えすぎずに日々の研究や関連活動に力を入れるといいと思います.なお,だめかもしれない応募でも,自分のこれまでの研究や関連活動を振り返り,今後のそのような活動への指針を考えるよい機会ですので,応募してもよいという機会があれば,最大限活かして下さい.
思い切って別の道を探る
自分では一生懸命に独自の研究を続け,論文を書き,関連活動をしていても,いっこうにテニュア付きの研究職に採用されないという方も多いかと思います.その時は,まずは研究分野,研究の進め方,どこで研究するか,だれと研究するかを見直して,少し大きく変化させてみるといいと思います.そのような大きな変化は,2回まででいいかと思います.それでも,なかなかうまくいかなくて,学位を取得してから10年程度すぎていたら,別の道を探るといいと思います.2つの進み方があるかと思います.
1つは,テニュア付きの職を求めるのはスパッと一端横において,研究を続けることだけを考える進み方です.大きなプロジェクト研究費を持っていて,期限付きで研究者を雇いたい人は,多いです.また,組織として期限付きである特定の仕事のための予算を獲得する場合もあります.そのような期限付きの職は,得られる収入は限られますし,自分中心の研究や活動にはしにくいですが,自分にあったプロジェクトであれば充実した仕事をすることもできます.テニュア付きの職を求めるのをやめれば,悩みが一つ少なくなって元気に研究・活動でき,運良くテニュア付きの職が開ける場合もあります.
もう一つは,研究職を求めるのをやめて,これまでに培った力を活かす仕事を新たに探すことです.そのためにも,それまでに研究だけではなく,雑用,運営,教育,企画,交流なのどの力を付けておくことです.上に書いたように,そのような力は研究者としても大切ですが,研究職以外を目指す時もとても大切です.ただし,別の職を探るときも中心になるのは研究する中で培った研究力です.30代にアカデミックな研究者から,企業や他の組織への就職,または起業する方向に転身して,研究する中で培った力を活かして活躍している人もたくさんいます.私の大学院時代の同級生は,アメリカで長めのポスドクの後,日本の製薬会社と健康食品会社で大活躍されました.私のアメリカでのポスドク仲間や岡崎の基礎研究所でのポスドクの先輩も何人も民間企業の研究所へ移って活躍していました.
メンタリングやご相談をご希望の方は,ご連絡下さい
私(松浦克美)をご存じの方でもこのページで初めて知った方でも,電子メールやビデオ通話やお会いしてのメンタリングセッションを行います.研究・進路・人間関係等の相談にものります.応募書類,プレゼン,面接で,ご自分の経験や考えをどう適切に表現するかの相談や添削・助言も行います.大学院生,ポスドク,若手研究室主宰者(PI)等,広く相談にのります.ビデオ通話やお会いする場合は,先にメールをやり取りしてお互いに有効性が期待できることを確認してから,日時と場所を設定します.グループでのメンタリングも行います.お会いする場合の費用は,個人・グループに関わらず1時間で3000円となります.ただし,東京都立大学関係者または日本微生物生態学会・日本光合成学会会員の方は,無料です.下記のフォームからご連絡下さい.