目次
- 研究室の決め方・選び方
- 研究テーマの決め方と研究の進め方
- テーマ設定の時に考えるとよいこと(1)予備検討
- テーマ設定の時に考えるとよいこと(2)本検討
- 研究室での生活への助言 Tips of the laboratory life for students
- 研究室で成長するための習慣
- (付録 1)私のこれまでの所属研究室と研究テーマの変遷:松浦克美
- (付録 2)私が研究室と研究テーマをどう決めてきたか
- (別ページリンク)「大学院生・研究者・教師のための:心と体が元気になる心がけとことば」
【 ご質問・ご相談があれば,お気軽にこちらまでお送り下さい 】
1. 研究室の決め方・選び方
理系の大学院生や卒業研究生にとって,自分が所属する研究室を決めること・選ぶことは,とても大切です.情報を集めて,研究室を訪問して話を聞いて,相談できる人に相談して,よく考えて決めましょう.ただし,いくら検討して決めてもうまくいかないこともあるので,その時には研究室を変えようとしてみて下さい.研究室の決めかたについての助言を書きます.私自身の経験や学生指導の経験,および教務委員として多くの学生の相談にのった経験にもとづいています.
1.自分がやりたい研究分野や研究テーマは大切ですが,それだけで研究室を決めない.
研究室で楽しくすごし,研究する力がつき,研究の成果が上がるためには,様々な条件や環境が必要です.それは,学生ごとに違います.自分がやりたい研究分野や研究テーマは,研究室を選ぶときにまず大切なことですが,他にも大切なことがあります.また,自分がやりたい研究分野や研究テーマがはっきりしない人は,別の要素で研究室を決めて,決めた研究室で一生懸命に研究を進めることでも,まったく問題ありません.私もかつて大学院の研究室を,そうやって決めました.
2.研究指導者の研究や研究指導についての考えは指導者によって大きく違うので,できれば自分に合った指導者がいいです.
学生の主体性を最大限尊重する指導者,まずは指導者の言うとおりにやることが大事だとする指導者,その中間の指導者がいます.また,学生との関わりが少ない指導者と,多い指導者と,中程度の指導者がいます.個人研究,チーム研究,個人研究だけどチームとしての協力も求められる研究の違いもあります.指導者と話してもそれらの点がなかなかわからないことも多いですが,研究室の学生や出身者に聞くとわかることが多いです.なお,自分が楽な指導者や学生との関わりが多い指導者が自分を成長させてくれるとは限りませんので,その指導者で自分が成長できるかが大切です.指導者以外の研究室メンバーから指導を受けられるかも,時には大切です.
3.研究室の雰囲気や習慣が,自分に合っているといいです.
理系の大学院生や卒業研究生は,活動時間の多くを研究室で過ごします.また,多くの時間を研究室で過ごさないと,自分が成長したり研究の成果を上げることが,難しいです.研究室の雰囲気や習慣が自分に合っていないと,楽しくないし,多くの時間を過ごすことができなくなっていきます.ぜひ,研究室訪問をしたときに,先生ばかりで無く,複数の所属学生と長く話してみてください.あなたがそれを楽しくできた研究室は,あなたに合っていると思います.
4.研究室の研究成果や卒業生の進路があなたの将来の希望に合っているといいです.
あなたは,将来やりたいことや,進路についての希望を持っていると思います.将来,やりたいことを実現するためや進路希望を実現するために,どの研究室を選ぶかが重要です.それについて,私からの助言は2つです.1つは,その研究室に所属していた学生が(新しい研究室の場合はかつてその先生が指導していた学生が,まだ指導経験が少ない先生の場合はその先生が大学院生として所属していた研究室の学生が)どのくらい研究論文を発表し,学会発表をしていたかです.もう1つは,その研究室に所属していた学生が,どんな職業についてきたかです.その2つが,あなたの将来の希望にある程度合っていれば,その研究室を選ぶといいと思います.
2. 研究テーマの決め方と研究の進め方
研究を行う目的の1つ = 研究する力(問題発見力・創造力・実行力等)をつける(将来目指す職業は問わない)
研究とは何か:まだ誰も知らないことについて,テーマや方法を自分で考えて,実験や調査を自分で行って,明らかにする.または,明らかにしようとする.
- 卒研や博士前期(修士)では,最終結果としては新しいことが明らかにならなくてもよい.
- テーマや方法において,自分で考えた部分が一定以上あればよく,同じ研究室の指導者や先輩等が考えたものを積極的に取り入れて良い.(この場合,成果を発表するときは共著となる.)
- テーマや方法の大部分を指導者や先輩等に教えてもらって,主に実際の作業をするだけでは,作業をした人の研究ではない.
研究テーマの決め方:自分の興味,研究室や指導者の強み,当該分野の研究の流れを考えて決める.また,与えられた期間でできそうなこと,始めやすいこと,自分が研究力をつけるのに役立ちそうかどうかも考慮する.
- 研究テーマは,研究を進めていく途中で変えて良い.ただし,一つのテーマを決めたら,3ヶ月程度(分野による)はそのテーマにしっかり取り組む.
- すぐに決まらない場合や変えたい場合は,テーマを仮に選んで2−4週間(分野による)試しにやってみてもよい.
実験・調査の始め方:本格的な実験・調査を始める前に,練習実験・調査や予備的な実験・調査を行う.予備的な実験・調査は,新しいことでなくて再現実験・調査でもよい.新しいことがあるかどうかの当たりをつけるための実験・調査でもよい.これを何回かやりながら,条件を決め,実験・調査技術を上げていく.そのためにも,予備的な実験・調査は,短期間で繰り返し行えるように計画を立てる.
文献調査:予備的な実験・調査と平行して,設定したテーマに関する文献調査を本格的に行う.何が分かっていて,何がまだ分からないかを明確にする.合わせて,実験・調査方法の細部を複数の文献でよく調べ,比較検討する.
本実験・本調査計画の立案:予備的な実験・調査と文献調査を十分行ったら,本実験・本調査計画を立案し,指導者と十分な検討を行う.
実験ノートの書き方:実験ノートには,細かいことでも,繰り返し同じことを行う場合でも,詳しく記入する.毎日の目的とまとめ(考察)は,少なくてもよいから必ず記入する.パソコンに入力された実験データでも,パソコンの中にだけ入れたままにしないで,データを得た当日にプリントアウトして実験ノートに貼り込み,必要なコメントを記入する.実験ノートには製本されたノートを用い,すべて日付順に日付と共に記入する.
研究テーマの表題:今まで誰も使ったことのない,ユニークなものとする.研究発表を行う時の表題は,自分が前に使ったものと同じであることも避ける.卒業研究発表や修士論文の表題は,学会発表の表題と重なってもよい.
研究発表での先行研究と自分の研究の明確な区別:研究発表を行う時は,どの部分はすでに別の人がやった研究で,どの部分が自分でやった研究かを,明確に区別する.また,どの部分が他人から得た着想で,どの部分が自分で得た着想であるかを,明確に区別する.他人のデータや図表を示す必要があるときは,スライドに出典を明記する.
論文での他人の著作物からの引用:他人の著作物から,その内容を引用するときは,引用であることが明確になるように引用する.同じ事を言いたいときでも,広く周知の事実以外は,引用として記述する.それらの引用は,科学論文では文章表現を変更するのが普通で,同じ表現での引用はあまりしない.どうしても同じ表現での引用をするときは,” “(引用符)で囲む.
- 研究室の先輩の修士論文,博士論文から引用する時も同じである.
- 自分がすでに発表した論文から引用する場合も,同じである.
- 自分の1つの論文の中で,別の場所で同じような内容を記述するときは,一定以上の長さの同一の文章表現を用いない.
- 一般的に周知の事実を記述するときは,引用としなくてよい.ただし,この場合も,文章表現は自分なりの表現を用いる.
(付録)研究を高めるコツ/研究力を高めるコツ
研究を高めるコツ
- 誰も見ていないものを見る.
- 誰も測っていないものを測る.
- 条件を変える.
- 比較する.
- 変化を追う.
研究力を高めるコツ
- なぜ,どうしてという疑問を増やす.
- 他の人と違う経験を,専門の学問分野でも学問以外でも多く積む.
- 他の人と違う予想や仮説を,数多く考えるくせをつける.
- 他の人と違うところもある実物調査・実地調査や実験を,積み重ねる.
- 自分が新しく明らかにできたと思うことを,早くから多くの人に話す.
3. テーマ設定の時に考えるとよいこと(1)予備検討
- なぜ,研究をやりたいか。
- どんな職業を目指しているか。
- 志望分野(志望研究室)は,どう変わってきたか。
- これまでのどんな勉強や経験を,テーマ設定に活かすか。
- これまでのどんな勉強や経験を,研究を進めるときに活かすか。
- これまでのどんな勉強や経験を,研究をまとめるときに活かすか。
- テーマをどう広く考え,どう絞っていくか。
- 論文をどのくらい,どう読んでテーマを考えるか。
- 何と何を組み会わせて,テーマを考えるか。
- だれと相談や意見交換しながら,テーマを考えるか。
4. テーマ設定の時に考えるとよいこと(2)本検討
- 自分がやりたいことは何か。自分が研究する目的は何か。
- 所属する研究室や指導者の特徴や利点を,どう生かせるか。
- その分野で,最近数年間,どんな内容や方法の研究が進んでいるか
- 先行研究を,どのぐらい調べるか。どのように調べるか。
- 方法について,どのぐらい深く理解するか。どのくらい,自分で再検討するか。
- 予備実験や練習実験をどう行うか。予備実験や練習実験から本実験に,どう移行するか。
- 自分で当たりをつける実験をどう行うか。それにどのくらい時間を使うか。
- 自分や指導者が納得するための実験をどう行うか。それにどのくらい時間を使うか。
- 他の研究者を納得させるための実験をどう行うか。それにどのくらい時間を使うか。
- 研究の進め方を,どのような頻度で再検討・修正するか。
- 研究がうまく進まないとき,どのようにテーマを再検討・修正するか。
- 研究がうまく進んでいるとき,どのようにテーマを修正・展開するか。
5. 研究室での生活への助言 Tips of the laboratory life for students
<基本的生活 Basic life>
1. 毎日決まった時間に研究室に滞在する.できれば朝9時頃に来る.
Stay in the laboratory at a fixed time every day. Come around 9 o’clock if possible.
2.毎日,できるだけ多くの研究室のメンバーと話をする.教員とも話す.
Talk to as many laboratory members as possible, including professors.
3.研究室を毎日きれいに保つ.自分一人でも清掃・整頓を行う.
Keep the laboratory clean every day. Keep the laboratory benches and shelves clean and in order even by yourself.
<研究 Research>
1. 自分がやりたい研究を行う.研究室や指導者の特徴を生かす.分野の最近の研究の流れを踏まえる.
Research what you would like to do.
Use the advantage of the laboratory and experience of senior members.
Follow somewhat the recent stream of related researches.
2. 練習実験,予備実験をまず繰り返し行う.実験の頻度を上げる.
Do training and preliminary experiments first repeatedly.
Raise the frequency of experiments.
3. 結果が出たら仮説にこだわらずに,結果を重視する.再現性を確認する.
Please rely on your results but not on your hypotheses after you got unexpected results.
Confirm reproducibility.
<研究ノート Laboratory notebook>
1. 毎日,研究の経過と考えを研究ノートに書く.同じ分野の研究者が,どのように実験が行われ,どんな結果が得られ,何を考えたかがわかるように書く.
Write about your research and ideas in a laboratory notebook every day.
By reading the notebook, any scientist in the field should understand how you did the experiments, got results, and thought.
2. 日付,開始時間,その日の目的,まとめ(その日の結論)は,必ず毎日書く.
Write the date, started time, purpose of the day, final message (conclusion of the day), as the minimum points every day.
3. 研究ノートがよく書けるようになるまで,毎週,ノートを指導者に見せ,助言を受ける.
Show your laboratory notebook to the supervisor every week and get advice until you begin to write a good notebook.
6. 研究室で成長するための習慣(当てはまらなくて伸びる人も多いです)
一般的に伸びていく人に共通的な習慣
- 朝,早めの時間から学校・職場にいる.
- 自分から進んで,ひとりでも,共通的な場所の掃除,片付け,ゴミ拾いをする.
- あいさつやおしゃべりを,自分からする.
大学院で特に伸びた人に共通的な習慣
- 毎週50時間程度以上研究室に滞在し,その内,10時間程度は,研究室のいろいろな人と話をしていた.(話の内容は,研究関係以外でもよい.)
- 研究計画を日程スケジュールとともに立てて,週1回程度は指導者と相談していた.(博士後期課程では,研究がうまく進んでいるときは,月1回程度で問題ない.)
- 研究室内外で,下級生やいろいろな人の面倒をみることや,他人のための自発的な活動に積極的に取り組んでいた.
大学院修了後に特に伸びた人に共通的な習慣
- 仕事,テーマ,手法を,機会があれば積極的に増やしたり,変えたりしていた.
- 自分の研究(仕事)の流れをうまくとらえて,ある時期,とても集中的に研究(仕事)に打ち込んでいた.(ある時期というのは,例えば,2−3ヶ月や2−3年.)
- 自分でチームを作ったり,他人の作ろうとしているチームに参加して,積極的にチームを育てる行動をとっていた.
7.(付録 1)私のこれまでの所属研究室と研究テーマの変遷:松浦克美
(テーマの後のかっこ内の名前は,中心になって研究を進めた共同研究者,記入無しは松浦が中心に進めた研究テーマ.松浦の関与の程度が低い共同研究は除いた.)
1974 東京都立大学 分子遺伝学研究室 卒業研究生
・枯草菌の細胞分裂研究のための細胞壁基質の開発を試みた.
1975-1980 九州大学 植物生理学研究室 大学院生
・ 光合成細菌の光合成膜の膜電位を,膜内に内在する電場に反応する分子で測った.
・ 光合成膜の裏表を,膜内の電場反応分子で調べた.
・ 光合成細菌の膜電位と酸化還元電位の関係を調べた.
・ それまでほとんど調べられていなかった,光合成膜の表面の静電位を測った.
・ 膜内の電場計として働く色素タンパク質複合体を明らかにした.
1980-1982 ペンシルベニア大学 Leslie Dutton研究室 ポストドク
・ ウシのミトコンドリアの電子伝達反応を,光合成細菌の光合成反応中心タンパク質を利用して調べた.
・ ウシのミトコンドリアの電子伝達反応と,光合成細菌の電子伝達反応がほとんど同じであることを示した.
・ ホウレンソウの葉緑体の電子伝達反応を,光合成細菌の光合成反応中心タンパク質を利用して調べた.
・ 光合成細菌の電子伝達反応が,条件の良いときも悪いときも,電子あたり同じ数のプロトンを輸送していることを示した.
・ 長年作用機構が明らかでなかった,ミトコンドリアのある電子伝達阻害剤の阻害機構を明らかにした.
1982-1984 基礎生物学研究所 細胞内エネルギー変換研究室 ポストドク
・ 葉緑体の酸素発生に関与するマンガンの性質を調べた.(山本泰)
・ 葉緑体と光合成細菌の電子伝達の共通点と相違点を明らかにした.
・ 大腸菌の呼吸鎖の成分を詳しく調べた.(秦昭子)
・ シアノバクテリアの生育光環境と光合成電子伝達成分の関係を調べた.
1985-2002 東京都立大学 微生物生理学/細胞エネルギー研究室 助手・助教授
(光合成細菌の光合成反応中心複合体タンパク質に結合したチトクロムとその進化)
・ 紅色細菌の光合成反応中心複合体に結合したチトクロムの系統的分布と進化を調べた.
・ いままで研究が遅れていた紅色光合成細菌で,光合成反応中心とその遺伝子を明らかにした.(永島賢治)
・ 反応中心複合体に結合したチトクロムを人工的にはずしても,反応が進むことを示した.
・ 反応中心複合体に結合したチトクロムを遺伝的に取り除いても,反応が進むことを示した.(永島賢治)
・ いままでに見つかっていなかった,新種の反応中心結合型チトクロムを発見した.(増田真二)
・ 研究が遅れていた緑色イオウ酸菌の光合成反応中心で,電子供与チトクロムの性質を詳しく示した.(奥村信巖)
(光合成細菌の光合成反応中心複合体に結合したチトクロムの遺伝子操作と反応解析)
・ 遺伝子操作による突然変異導入により,他の成分との反応部位を明らかにした.(Artur Osyczka)
・ 水溶液中の反応でも,静電気的な相互作用ばかりでなく,疎水的な相互作用も重要であることを示した.(Artur Osyczka)
(脱窒=硝酸呼吸を行う光合成細菌(都立大で発見)の電子伝達系)
・ 脱窒光合成細菌の脱窒と光合成の電子伝達系は多くが共通だが,同じ成分でもある程度の機能分化があることを示した.(堀美智子)
・脱窒の電子伝達系の全貌を明らかにした.(伊藤雅彦)
(光・酸素傷害の防止機構)
・ 葉緑体の鉄イオウタンパク質が,酸化ばかりでなく,還元でも傷害をうけることを示した.(井上和仁)
・ 酸素のある環境で光合成器官を作る紅色細菌において遺伝子発現制御の特徴を明らかにした.(増田真二,松本有美)
(緑色細菌の独自な光捕集器官:クロロソーム)
・ クロロソーム中のクロロフィルは,タンパク質に結合せずに高次構造を形成することを示した.(広田雅光)
・ 水溶液中に人工的なクロロソームを,初めて作ることに成功した.(広田雅光)
・ クロロソーム中に存在するクロロフィルの存在状態を調べ,構造モデルを提案した.
・ クロロソームに含まれるカロチノイドの分布と役割を明らかにした.(辻公博)
・ クロロソームにキノンが含まれることを明らかにし,酸素のある環境に適応するために必要であることを示した.(Niels U. Frigaard)
・ エネルギー移動に重要なバクテリオクロロフィルaを結合するタンパク質を明らかにした.(桜木由美子)
・ 人工的なキノンでも,励起エネルギー移動の調節機能があることを明らかにした.(時田誠二)
(光合成細菌における光合成遺伝子の種間移動と光合成の進化)
・紅色細菌において,昔(30億年前)光合成遺伝子の大規模な種間移動があったことを示した.(永島賢治)
(新種の光合成細菌の探索と光合成の進化)
・ 緑色糸状細菌の2種目の新菌を,女夫淵温泉から分離した.(花田智)
・ 緑色でない緑色糸状細菌を,中房温泉から分離し,紅色細菌にも似ていることを示した.(花田智)
・ 中房温泉から単離した細菌が,最古の光合成生物の性質を最も多く残している可能性を示した.(山田光則)
2003−2004 都立大学附属高校長 およびその後
・生物教育の現代化に関する研究
・自発的学習力を育成する教育方法に関する研究
・高校生の課題研究(探究活動)の進め方に関する研究
・大学および高校の組織運営とその改革に関する研究
2005-2018 首都大学東京 環境微生物学研究室 教授
(温泉の微生物マット中の物質循環とエネルギーの流れに関する研究)
・ 温泉流水中の75℃の微生物群集中で,イオウ循環が進行していることを示した.(長谷裕美子)
・ 温泉流水中の75℃の微生物群集中を実験室で維持培養する系を作成し,群集の維持に酸素と硫黄化合物の適度な供給が重要であることを示した.(原なつみ)
・ 温泉流水中の65℃の微生物群集中で,酸素を発生しない光合成細菌がイオウ循環に働いていることを示した.(久保響子)
・ 温泉流水中の65℃の微生物群集中で,光合成細菌が固定したエネルギーを用いて,発酵細菌が水素を発生しており,発生した水素は群集中で消費されていることを示した.(大滝宏代)
・ 温泉流水中の65℃の微生物群集中で,電子が,炭素,水素,イオウと担体を変えつつ循環していることを示した.(大滝宏代)
・ 温泉流水中の光合成細菌が,独立栄養で成育していることを予備的に示した.(岩田聡実)
(温泉の微生物マット中の微生物の相互作用に関する研究)
・85度から50度まで温度が下がるに従い細菌種は変換するのではなく追加されることを示した.(Craig Everroad)
・従属栄養細菌が分泌するプロテアーゼで光合成細菌の運動性が増加することを示した.(諸星聖)
・細菌界にも,捕食と捕食からの逃避の概念が存在する可能性を指摘した.(諸星聖)
・生きた光合成細菌のみを栄養素として,従属栄養細菌が成育することを示した.(加藤沙織)
(貧栄養環境における微生物の動態の研究)
・炭素飢餓条件の細菌の生残に,光合成機能が一般的に有利なことを示した.(菅野菜々子)
・炭素飢餓条件の暗条件の光合成細菌の生残が,種により大きく異なることを示した.(菅野菜々子)
・河川礫上のバイオフィルムの未知の光合成細菌が多種類存在することを示した.(広瀬節子)
・窒素欠乏状態で緑藻の成育が窒素固定を行うシアノバクテリアの存在に依存することを示した.(後藤陽)
(光合成細菌の多様な機能に関する研究)
・海洋の光合成細菌を含む微生物複合系が安息香酸を嫌気的光依存的に分解することを示した.(西谷真一)
・淡水に亜硝酸還元光合成細菌が広範に存在し他の菌と共に硝酸を脱窒していることを示した.(松川健宏)
(好熱性細菌の窒素固定に関する研究)
・ 70℃以上の化学合成微生物群集で,初めて窒素固定活性を示した.(西原亜理沙)
・ 中房温泉の70℃以上の化学合成微生物群集に,7つの門の窒素固定遺伝子が存在し,そのうち2門(水素を使う化学合成細菌と発酵細菌)の遺伝子が多かった.(西原亜理沙)
・ 窒素固定を行う好熱性の化学合成細菌を世界で初めて単離した.(西原亜理沙)
(好熱性光合成細菌の独立栄養成育に関する研究)
・ 好熱性光合成細菌のクロロフレクサスが,水素を電子供与体として嫌気光合成的および好気呼吸的に独立栄養成育をすることを示した.(河合繁)
・ 好熱性光合成細菌のクロロフレクサスは単独では硫化水素を電子供与体としてほとんど成育できないが,イオウ不均化化学合成細菌と共生することでよく成育することを示した.(河合繁,神谷直毅)
8. (付録 2)私が研究室と研究テーマをどう決めてきたか
ここまで書いてきたように,私は6つの研究室で,生物物理学⇒生化学⇒進化学⇒生態学と分野を広げながらいろいろなテーマで研究してきました.自分で考えて自分で決めた要素が強いのは,卒業研究の研究室を決めたときと,都立大学に就職して3−4年たって数報の論文を書いた後にいよいよ自分がやりたい研究テーマを3つ設定しようとしたときです.後は,なりゆきに任せてきました.
九州大学へ行ったのは友達に誘われたから,ペンシルバニア大学へはあちらのボスに誘われたから,基礎生物学研究所もそこのボスに誘われたから,都立大学の自分の出身でない研究室に応募したのは友人に誘われたから,環境微生物学研究室に移ったのはそこの先生が他大学に移ったからです.研究室もテーマも,なりゆきに合わせて,自分や研究室のその前の研究からの流れを活かして,自分なりに取り組んできたものが多いです.学生の研究テーマも,相談にのって提案したことはあっても,こちらからこのテーマをと限定して提示したことはないつもりですし,科学研究費補助金に申請する研究テーマも,たまたまその時に学生が取り組んでいたテーマをもとに応募することが多かったです.
皆さんに伝えたいことは,やりたい研究がある人はそれに向かってまっすぐに進むといいと思いますが,それがなくてもたまたま飛び込んだ場所でできることを精一杯やるのでも,何も問題ないということです.それの方が,自分が思いもかけなかった方向への展開もあって,わくわく楽しいことも多いです.そのように偶然や予想外に発見できたりや幸福になったりすることを,18世紀のイギリスから,セレンディピティという言い方で大切にされてきているようです.ただ,私自身を長い期間で振り返ってみると,大学院で出会った光合成細菌や電子と,高校の頃から気になっていた主体性や自発性には,こだわれる時にはこだわってきた気がします.