(テーマの後のかっこ内の名前は,中心になって研究を進めた共同研究者,記入無しは松浦が中心に進めた研究テーマ.松浦の関与の程度が低い共同研究は除いた.)

1974 東京都立大学 分子遺伝学研究室 卒業研究生 

・枯草菌の細胞分裂研究のための細胞壁基質の開発を試みた.

1975-1980 九州大学 植物生理学研究室 大学院生 

・ 光合成細菌の光合成膜の膜電位を,膜内に内在する電場に反応する分子で測った.
・ 光合成膜の裏表を,膜内の電場反応分子で調べた.
・ 光合成細菌の膜電位と酸化還元電位の関係を調べた.
・ それまでほとんど調べられていなかった,光合成膜の表面の静電位を測った.
・ 膜内の電場計として働く色素タンパク質複合体を明らかにした.

1980-1982 ペンシルベニア大学 Leslie Dutton研究室 ポストドク  

・ ウシのミトコンドリアの電子伝達反応を,光合成細菌の光合成反応中心タンパク質を利用して調べた.
・ ウシのミトコンドリアの電子伝達反応と,光合成細菌の電子伝達反応がほとんど同じであることを示した.
・ ホウレンソウの葉緑体の電子伝達反応を,光合成細菌の光合成反応中心タンパク質を利用して調べた.
・ 光合成細菌の電子伝達反応が,条件の良いときも悪いときも,電子あたり同じ数のプロトンを輸送していることを示した.
・ 長年作用機構が明らかでなかった,ミトコンドリアのある電子伝達阻害剤の阻害機構を明らかにした.

1982-1984 基礎生物学研究所 細胞内エネルギー変換研究室 ポストドク

・ 葉緑体の酸素発生に関与するマンガンの性質を調べた.(山本泰)
・ 葉緑体と光合成細菌の電子伝達の共通点と相違点を明らかにした.
・ 大腸菌の呼吸鎖の成分を詳しく調べた.(秦昭子)
・ シアノバクテリアの生育光環境と光合成電子伝達成分の関係を調べた.

1985-2002 東京都立大学 微生物生理学/細胞エネルギー研究室 助手・助教授 

(光合成細菌の光合成反応中心複合体タンパク質に結合したチトクロムとその進化)
・ 紅色細菌の光合成反応中心複合体に結合したチトクロムの系統的分布と進化を調べた.
・ いままで研究が遅れていた紅色光合成細菌で,光合成反応中心とその遺伝子を明らかにした.(永島賢治)
・ 反応中心複合体に結合したチトクロムを人工的にはずしても,反応が進むことを示した.
・ 反応中心複合体に結合したチトクロムを遺伝的に取り除いても,反応が進むことを示した.(永島賢治)
・ いままでに見つかっていなかった,新種の反応中心結合型チトクロムを発見した.(増田真二)
・ 研究が遅れていた緑色イオウ酸菌の光合成反応中心で,電子供与チトクロムの性質を詳しく示した.(奥村信巖)

(光合成細菌の光合成反応中心複合体に結合したチトクロムの遺伝子操作と反応解析)
・ 遺伝子操作による突然変異導入により,他の成分との反応部位を明らかにした.(Artur Osyczka)
・ 水溶液中の反応でも,静電気的な相互作用ばかりでなく,疎水的な相互作用も重要であることを示した.(Artur Osyczka)

(脱窒=硝酸呼吸を行う光合成細菌(都立大で発見)の電子伝達系)
・ 脱窒光合成細菌の脱窒と光合成の電子伝達系は多くが共通だが,同じ成分でもある程度の機能分化があることを示した.(堀美智子)
・脱窒の電子伝達系の全貌を明らかにした.(伊藤雅彦)

(光・酸素傷害の防止機構)
・ 葉緑体の鉄イオウタンパク質が,酸化ばかりでなく,還元でも傷害をうけることを示した.(井上和仁)
・ 酸素のある環境で光合成器官を作る紅色細菌において遺伝子発現制御の特徴を明らかにした.(増田真二,松本有美)

(緑色細菌の独自な光捕集器官:クロロソーム)
・ クロロソーム中のクロロフィルは,タンパク質に結合せずに高次構造を形成することを示した.(広田雅光)
・ 水溶液中に人工的なクロロソームを,初めて作ることに成功した.(広田雅光)
・ クロロソーム中に存在するクロロフィルの存在状態を調べ,構造モデルを提案した.
・ クロロソームに含まれるカロチノイドの分布と役割を明らかにした.(辻公博)
・ クロロソームにキノンが含まれることを明らかにし,酸素のある環境に適応するために必要であることを示した.(Niels U. Frigaard)
・ エネルギー移動に重要なバクテリオクロロフィルaを結合するタンパク質を明らかにした.(桜木由美子)
・ 人工的なキノンでも,励起エネルギー移動の調節機能があることを明らかにした.(時田誠二)

(光合成細菌における光合成遺伝子の種間移動と光合成の進化)
・紅色細菌において,昔(30億年前)光合成遺伝子の大規模な種間移動があったことを示した.(永島賢治)

(新種の光合成細菌の探索と光合成の進化)
・ 緑色糸状細菌の2種目の新菌を,女夫淵温泉から分離した.(花田智)
・ 緑色でない緑色糸状細菌を,中房温泉から分離し,紅色細菌にも似ていることを示した.(花田智)
・ 中房温泉から単離した細菌が,最古の光合成生物の性質を最も多く残している可能性を示した.(山田光則)

2003−2004 都立大学附属高校長 およびその後

・生物教育の現代化に関する研究
・自発的学習力を育成する教育方法に関する研究
・高校生の課題研究(探究活動)の進め方に関する研究
・大学および高校の組織運営とその改革に関する研究

2005-2018 首都大学東京 環境微生物学研究室 教授 

(温泉の微生物マット中の物質循環とエネルギーの流れに関する研究)
・ 温泉流水中の75℃の微生物群集中で,イオウ循環が進行していることを示した.(長谷裕美子)
・ 温泉流水中の75℃の微生物群集中を実験室で維持培養する系を作成し,群集の維持に酸素と硫黄化合物の適度な供給が重要であることを示した.(原なつみ)
・ 温泉流水中の65℃の微生物群集中で,酸素を発生しない光合成細菌がイオウ循環に働いていることを示した.(久保響子)
・ 温泉流水中の65℃の微生物群集中で,光合成細菌が固定したエネルギーを用いて,発酵細菌が水素を発生しており,発生した水素は群集中で消費されていることを示した.(大滝宏代)
・ 温泉流水中の65℃の微生物群集中で,電子が,炭素,水素,イオウと担体を変えつつ循環していることを示した.(大滝宏代)
・ 温泉流水中の光合成細菌が,独立栄養で成育していることを予備的に示した.(岩田聡実)

(温泉の微生物マット中の微生物の相互作用に関する研究)
・85度から50度まで温度が下がるに従い細菌種は変換するのではなく追加されることを示した.(Craig Everroad)
・従属栄養細菌が分泌するプロテアーゼで光合成細菌の運動性が増加することを示した.(諸星聖)
・細菌界にも,捕食と捕食からの逃避の概念が存在する可能性を指摘した.(諸星聖)
・生きた光合成細菌のみを栄養素として,従属栄養細菌が成育することを示した.(加藤沙織)

(貧栄養環境における微生物の動態の研究)
・炭素飢餓条件の細菌の生残に,光合成機能が一般的に有利なことを示した.(菅野菜々子)
・炭素飢餓条件の暗条件の光合成細菌の生残が,種により大きく異なることを示した.(菅野菜々子)
・河川礫上のバイオフィルムの未知の光合成細菌が多種類存在することを示した.(広瀬節子)
・窒素欠乏状態で緑藻の成育が窒素固定を行うシアノバクテリアの存在に依存することを示した.(後藤陽)

(光合成細菌の多様な機能に関する研究)
・海洋の光合成細菌を含む微生物複合系が安息香酸を嫌気的光依存的に分解することを示した.(西谷真一)
・淡水に亜硝酸還元光合成細菌が広範に存在し他の菌と共に硝酸を脱窒していることを示した.(松川健宏)

(好熱性細菌の窒素固定に関する研究)
・ 70℃以上の化学合成微生物群集で,初めて窒素固定活性を示した.(西原亜理沙)
・ 中房温泉の70℃以上の化学合成微生物群集に,7つの門の窒素固定遺伝子が存在し,そのうち2門(水素を使う化学合成細菌と発酵細菌)の遺伝子が多かった.(西原亜理沙)
・ 窒素固定を行う好熱性の化学合成細菌を世界で初めて単離した.(西原亜理沙)

(好熱性光合成細菌の独立栄養成育に関する研究)
・ 好熱性光合成細菌のクロロフレクサスが,水素を電子供与体として嫌気光合成的および好気呼吸的に独立栄養成育をすることを示した.(河合繁)
・ 好熱性光合成細菌のクロロフレクサスは単独では硫化水素を電子供与体としてほとんど成育できないが,イオウ不均化化学合成細菌と共生することでよく成育することを示した.(河合繁,神谷直毅)

私が研究室と研究テーマをどう決めてきたか

ここまで書いてきたように,私は6つの研究室で,生物物理学⇒生化学⇒進化学⇒生態学と分野を広げながらいろいろなテーマで研究してきました.自分で考えて自分で決めた要素が強いのは,卒業研究の研究室を決めたときと,都立大学に就職して3−4年たって数報の論文を書いた後にいよいよ自分がやりたい研究テーマを3つ設定しようとしたときです.後は,なりゆきに任せてきました.

九州大学へ行ったのは友達に誘われたから,ペンシルバニア大学へはあちらのボスに誘われたから,基礎生物学研究所もそこのボスに誘われたから,都立大学の自分の出身でない研究室に応募したのは友人に誘われたから,環境微生物学研究室に移ったのはそこの先生が他大学に移ったからです.研究室もテーマも,なりゆきに合わせて,自分や研究室のその前の研究からの流れを活かして,自分なりに取り組んできたものが多いです.学生の研究テーマも,相談にのって提案したことはあっても,こちらからこのテーマをと限定して提示したことはないつもりですし,科学研究費補助金に申請する研究テーマも,たまたまその時に学生が取り組んでいたテーマをもとに応募することが多かったです.

皆さんに伝えたいことは,やりたい研究がある人はそれに向かってまっすぐに進むといいと思いますが,それがなくてもたまたま飛び込んだ場所でできることを精一杯やるのでも,何も問題ないということです.それの方が,自分が思いもかけなかった方向への展開もあって,わくわく楽しいことも多いです.そのように偶然や予想外に発見できたりや幸福になったりすることを,18世紀のイギリスから,セレンディピティという言い方で大切にされてきているようです.ただ,私自身を長い期間で振り返ってみると,大学院で出会った光合成細菌や電子と,高校の頃から気になっていた主体性や自発性には,こだわってきた気がします.