アン・ランゲージ・スクール成増校のご紹介と日本語教育改善の取り組み:一緒に楽しく日本語を学ぼう!

アン・ランゲージ・スクール成増校では,アジアからの留学生が大学や専門学校への入学を目指して,2年間日本語を学んでいます,多くの学生が,特別に認められた週28時間のアルバイトをしながら,熱心に日本語を学んでいます.レストランやコンビニエンスストアでアルバイトをしている学生も多く,そこでのお客様やスタッフとの会話も,日本語の練習になっています.(学校の詳しい状況=自己評価・点検は,こちらをご覧ください.)

私は長年大学の教授を務め,大学と大学院で留学生の学習指導,研究指導,入学試験を担当してきましたので,アン・ランゲージ・スクール成増校では,大学と大学院への進学指導,受験対策,面接指導,研究計画書作成指導等にも力を入れて担当しています.大学・大学院へ進学希望の方は,どうぞアン・ランゲージ・スクール成増校への入学をご検討下さい.

大学を定年退職した直後の2018年4月から,アン・ランゲージ・スクール成増校の校長を務めています.それまでの生物学の教育と研究とは,まったく違う分野でしたが,校長の募集をWeb検索で見つけて,学校のホームページにあった以下のメッセージを読んで応募することにしました.

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アン・ランゲージ・スクール成増校では、文法や試験対策等の学習にとどまらず「“良く生きる”ための日本語(自らの希望を実現する、日々の生活を充実させる)」を教えることを信条とし、特に以下の3点に重点を置いた教育を行なっています。

  • 日本社会において、自立した生活を営む力をつける。
  • 視野を広げ、新たな発見をする。
  • 「日本と日本語が好き」「日本に来てよかった」と感じる。

わたしたちアン・ランゲージ・スクール成増校は、「学生がみな熱意をもって勉強に邁進できる」―― そういった日本語教育の‘場’を創り上げていきます。

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着任してみると,多くの日本語教師が熱心にそのような日本語教育を目指していることがわかりました.また,母国から離れた遠い日本で不慣れや不安もある学生達の面倒を,教師もスタッフもとてもよく見ていることがわかりました.

世の中のイメージや報道では,日本語学校は働きに来日する若い人の隠れ蓑になっているように感じている人も多いかもしれませんが,多くの日本語学校では,ほんとうに熱心な学生達が学習しています.私の前職の大学の学生達と比べても,学習の熱心さではまったく引けをとりません.

ただ,多くの学生達にとっては,日本語はとても難しいです.教師の教え方も,まだまだ,改善途中です.アン・ランゲージ・スクール成増校では,従来の教え方ではなかなか力をつけていけなかった学生にも力をつけてもらえるよう,さまざまな工夫を進めています.

校長の私が,校内の研修会(Workshop)で用いた授業改善のための資料を,下記にコピーします.1つめは「モチベーションを上げる方法,下げる方法」,2つめは「コミュニケーションから始める言語教育法」です.どちらも,第2言語としての主に英語教育法の本を参考にしてまとめました.ご質問やご意見がありましたら,どうぞこちらからお知らせ下さい.

学習者のモチベーションを上げる方法,下げる方法  松浦克美2019.10

(Zoltan Dornyei and Ema Ushioda著: Teaching and Researching: Motivation (Applied Linguistics in Action) (2011) 第5章・第6章を参考にしたまとめ)

<学習者のモチベーションを上げる方法>

  1. 教師が,学生と良い関係を築いている.
  2. 教師が,学生が努力して学習したいと思っていることを信じている.
  3. 教師が,学生の個人的な背景や生活にも興味を持っている.
  4. 教師が,学生ごとの能力や性格や意欲の違いを認めて,学習を支援しようとしている.
  5. 教師が,学生の力を向上させたいと,強く思っている.
  6. 教師が,どの学生も学習の成果が上がることを信じている.
  7. 教師が,教えることへの情熱をストレートに出している.
  8. 教師が,楽しそうに教えている.
  9. 教室の雰囲気が,楽しい.
  10. 学生が,できるようになった将来の自分をイメージできる.
  11. 学生が,当面(3ヵ月や6ヵ月)力をつけるべき目標を明確に持ち,達成可能だと思っている.
  12. 学生が,自分の学習が毎日進んでいることを意識できるように,教師から指摘や励ましがある.
  13. 学生が,これまでに努力してできるようになったことを意識できるように,教師から指摘や励ましがある.
  14. 努力して学習が進んだ先輩を,モデルとして見る機会がある.
  15. 学年や学期の最初の段階でクラスの雰囲気作りを行い,学習への気持ちや教室でのルールが共有されている.
  16. 学生が,何を発言してもよい雰囲気がある.何をどう言っても笑われたり恥ずかしい思いをさせられたりしない.
  17. 学生達が,一緒に学習してお互いに高め合っていこうとする気持ちが高い.
  18. 学生達が,授業中にグループで一緒に作業をすることがある.
  19. 学生達が,授業中に教え合ったり,授業外で一緒に勉強したりする.
  20. 学生が授業で与えられた課題を達成でき,それによる満足感,充実感がある.
  21. テストの成績や授業の評点が良い.
  22. 学習の途中では,間違いは必要であることを教師も学生もわかっている.
  23. 学習が遅い学生や,発言に時間がかかる学生や,間違いが多い学生に対して,クラスの学生が寛容である.
  24. 学生が,授業での活動にすぐに入れるように,教師の指示がわかりやすい.
  25. 授業ごとに,なぜその内容を学習する必要があるのかを,学生が分かっている.
  26. 授業で扱われる題材が,学生の関心や生活や経験に根ざしている.そこで学んだことをすぐに,または将来使える.
  27. 様々な方法やアプローチで学習が進むよう,授業全体に変化があるように構成されている.
  28. 授業の中で,学生が誉められたり,励まされたりすることが多い.
  29. 学生が,自分から主体的に学ぼうとする気持ちがある.
  30. 学生が主体的に学習できるように,教師からの援助や励ましがある.
  31. 学生が,何をどのように学習するかについて,自分で選択する余地がある.
  32. 演習問題や宿題をするに当たって,学生に選択する余地がある.
  33. 宿題や予習・復習以外の授業外の主体的な学習が,強く奨励されている
  34. 学生が,自分の学習計画全体を,教師からの課題や助言を取り入れながら自分で作っている.
  35. 教師が学生に与えすぎることなく,学生が求めてきても答えや助言をすぐには与えない.
  36. 学生が,あせらないでリラックスして学習できるように,教師からの援助や励ましがある.

<学習者のモチベーションを下げる方法>

  1. 学生が,自分の学習がうまく進むかどうか不安を感じている.
  2. 学生が,学習以外の生活や人間関係に不安を感じている.
  3. 学生が教師に依存しようとしている.教師が学生を依存させようとしている.
  4. 学生が,自分の学習を自分でコントロールしようとしていない.
  5. 学生が,学習する意味や必要性を,十分に理解していない.
  6. 授業が,楽しくない.
  7. 求められている学習の達成目標が高すぎる.
  8. 学生が,他の学生の前で恥ずかしい思いをされられる.
  9. 学生が,やりきれない課題や宿題を与えられる.
  10. 学生が,テストで悪い点をとる.
  11. 学生が納得していないのに,下のクラスに入れられたり,進級できなかったりする.
  12. 授業の題材に,学生の興味や経験や生活と関係ないものがある.そこで学んだことが将来使えない.
  13. 授業が退屈である.授業がよく準備されていない.
  14. 教師の,学生への指示が明確でない.
  15. 授業で扱う内容が多すぎる.
  16. 授業で扱う内容が,学生の能力に比べ難し過ぎる.または,易し過ぎる.
  17. 授業で同じような活動が,長い時間続く.
  18. 学生が理解していないことに対して,教師が優しくなく対応する.
  19. 教師が学生に支配的に接し,自分の思い通りに動かそうとする.
  20. 教師が近寄りがたい.教師がしばしば学生を批判する発言をする.
  21. 教師から学生への思いやりが足りない.
  22. 教師から,一部の学生が無視される.教師が,一部の学生をえこひいきする.
  23. 教師の情熱が足りない,気力が足りない.
  24. 教師が一方的に授業の内容や方法を決めている.
  25. 教師が,学生と一緒に授業を作っていく気持ちがない.
  26. 教師が学生を自由放任にし過ぎ,学生に必要な援助を適切に与えようとしない.
  27. 教師の,教える内容や教える方法や話し方についての能力が低い.
  28. 教師が,古い方法で教える,古い教材で教える.
  29. 一定数の学生が授業に付いてきていないのに,教師が同じ方法で授業を続ける.
  30. 学生が学びたい内容や方法でなく,教師が教えたい内容や方法で授業が進む.
  31. 学生が良くできたときに,適切に誉められたり,良い点を具体的に指摘されたりしない.
  32. 学生が間違いを指摘されすぎたり,否定的な評価コメントばかりを受けたりする.
  33. 学生が理解できないときやうまく実行できないときに,教師が学生のせいにする.
  34. 学生がうまくできないときに,効果的なサポートがない.
  35. 教師が,学生の学習が進まないことについて学生に批判的な気持ちがある.
  36. 一人の教師が,その科目のすべてを教える.(その教師と合わない学生のモチベーションが下がる.)

コミュニケーションから始める言語教育法   松浦克美2019.11

(Patsy M. Lightbown and Nina Spada著: How Languages are Learned (Oxford Handbooks for Language Teachers) (2013) 第6章を参考にしたまとめ)

1.最初はコミュニケーション中心に教える

  1. 最初は文型や文法ではなく,言語をコミュニケーションに使う学習から始めるのがよい.
  2. 聞いてまねして言うのではなく,言語をコミュニケーションに使う学習から始めるのがよい.
  3. 伝えたいことを伝えるのが大切で,それができれば,最初は間違いをあまり気にしない方がよい.
  4. 正確な文型や文法よりも,伝えたい意味を伝えることが大切であることを中心にする.
  5. 伝えたい意味を伝えることから離れた言い換え練習は,効果的でない.
  6. 文型を繰り返して言う練習は,テストには役立っても,本来の言語力養成にはあまり役立たない.
  7. 自由なコミュニケーションをしていると,最初は間違っていてもやがて正しく使えるようになる.
  8. 教室では,学生間や学生と教師間で,言いたいことを言い合うような状況を多くするとよい.
  9. コミュニケーション中心の授業の中に,文型や文法を組み入れていくことは有効である.

2.ただ聴いて,ただ読むだけ

  1. 聴くことや読むことを多く行って内容を理解することは,とても有効である.
  2. ただ読んだり聴いたりすることは,特に初級の学生にとって効果的である.
  3. 中級や上級の学生にとっては,ただ読んだり聴いたりすることは他の方法と組み合わせるのがよい.
  4. 聴いたり読んだりするときに100%理解する必要は無く,70%〜90%理解できればよい.
  5. 語彙を増やしたり言語理解力を増すためには,意味に注意して多く聴き多く読むことが重要である.
  6. 多く聴き多く読むことを続けていると,話したり書いたりすることにもとても役に立つ.
  7. ある程度理解できる内容を聴いたり読んだりできれば,その後,その内容を確認する必要はない.
  8. 聴くものや読むものは,学生の能力や興味に応じて,学生ごとに違っていてよい.違った方がよい.
  9. 特定の文型が繰り返し出てくる文章をただ多く読むことにより,その文型が習得される.

3.学生間や学生と教師間で話す

  1. 言語を実際に使えるようになるためには.学生間や学生と教師間の会話が効果的である.
  2. 会話では,自分自身を表現することや自分のしたいこと,考え,意見等を話すことが重要である.
  3. 自分と相手にとって意味のある会話をする中で,文型や文法や語彙を習得することができる.
  4. 自分にとって意味のある会話をすることで,学生のモチベーションが上がることが多い.
  5. 会話の中で,もう一度言ってもらったり,確認したり,言い替えてもらうことが重要である.
  6. 間違いがあったら,会話相手が間違いを指摘せずに正しい言い方で言い直すことが有効である.
  7. 初級者同士の会話で間違いが多くても,会話が続きさえすれば言語習得に効果的である.
  8. 自分と相手にとって意味のあることを話そうとすること自体が,言語習得に重要である.
  9. 言語能力の異なる学生同士に会話をさせるときは,力の低い学生がより話せる工夫が必要である.

4.言語と一緒に諸分野の内容を学習する

  1. 学んでいる言語で諸分野の内容を学習することは,言語習得のためにも効果的である.
  2. 諸分野の内容を学んでいる言語で教わることは,学生の興味を引けることも多い.
  3. 諸分野の内容を学んでいる言語で教わるときは,学生が教わる分野を自分の興味で選択できるとよい.
  4. 諸分野の内容も言語と一緒に学んでおくと,進学のための試験や,進学後の学習に役立つことがある.
  5. 諸分野の内容を言語と一緒に教える時は,教師がよく知っている分野を教えるのがよい.
  6. 諸分野の内容を言語と一緒に教える時は,特に教師が一方的に教えることにならない注意が必要である.

5.教えれば習得できることを教える

  1. 学生の言語習得の段階をよく考慮して教える.学習する準備ができてないことを教えない.
  2. 文型や文法の学習は,特にその前に獲得している言語能力に考慮する必要がある.
  3. 文型や文法は,学生が自ら発見したり気がついたりするように教えられるとよい.
  4. 学生によって,目的も,興味も,モチベーションも,能力も違うので,その違いを考慮して教える.
  5. 教える内容によっては,段階をあまり考慮せずに,いつでも教えられる内容もある.
  6. 間違いを修正するのは適切な時期があり,いつでも正確性を求めるのは言語習得を遅らせる.

6.最後には文型と文法も習得している

  1. 文型・文法・語彙・発音は全部を教えなくても,最後に学生が習得していれば良い.
  2. 文型・文法・語彙・発音は教えなくても,聴いたり読んだり使ったりする中で,学生が自分で習得できることがある.
  3. コミュニケーションや内容中心の授業でも,文型や文法を適切に織りまぜると効果的なことがある.
  4. 文型や文法を教えても,すぐ後のテストには効果的でも,1年後には効果が残らないこともある.
  5. 教わった文型や文法を,自分がコミュニケーションによく使うと,残りやすい.
  6. 学習の最後の段階に近づいたら,自分で気づかなかった間違いを細かく修正してあげるとよい.

<全般的なこと>

  1. 文法訳読法やオーディオリンガル法や文型重視の教授法には,それに合った学生がいる.しかし,合わなくて言語力が伸びない学生も多いことに,より注意を払う必要がある.
  2. 学生の言語の間違いを修正するタイミングと方法は,言語習得に大きく影響する.有効な方法の個人差も大きいので,注意する必要がある.正確性は,だんだんと向上するのを目指すのがよい.
  3. 教師はつい慣れた方法で教えがちであるが,そうではなくて,常に「この方法が,今ここにいる学生達に最も効果的な方法であるか」を問い続け,いろいろな方法を試すのがよい.